落ち着く場所ってあるよね。
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これは僕の気まぐれ。
仮面を被る僕とそっくりなきみへ。- Ich wünsch dir viel Glück. -
「今日はキスの日なんだって」
と、三人のうちの一人…分厚い本を胸に抱いた、利発を絵に描いたような少年が言う。添い歩く一方はまるで気にも留めないように短く「ふぅん」と答え、もう一方は幾らか興味がある面持ちで対象は家族でもいいのか、なんて尋ねていた。――質素な夕食の前に見た光景だ。華奢な腕に隠れるように収まった、所々装丁が破れ表紙の文字が擦れた書物。東洋の古い文化が記されているらしいあの本の中には、一体どんな答えが載っているのだろう。
何故だかとても気になって夜中に布団を抜け出す。家族の括りでもいいのならアニやライナーにも…なんて下心があったのは認めるよ。家族同然の彼らに敬愛(なんて名ばかりの、欲望を満たすだけ)の口付けを送る正当な理由が欲しかったんだ。眠る彼に心の中で謝罪を述べ、擦り切れた古紙の小声を寝静まった室内へと響かせる。それにしても、こんな本を持っていて彼は恐ろしくはないんだろうか。
結果的に僕が見付けたものは答えではなかった。本によると、その日は「恋文の日」でもあったらしい。キスもいいけれど、僕にはこちらの方が向いていそうだ。家族の括りが許されたとしても実際にキスするなんてとんでもない。頭の中で、紙の上で口付けるのもやっとなんだから。キスしたい、口付けたい、噛み付きたい。独りで言うだけ言ってみるのは僕の唯一の得意技。自分の実行力の無さが身にしみて、答えなんてどうでも良くなってしまった。
(熱烈なラブレターの宛先はどちらにするべきなんだろう。)- Unentschiedenheit -
今年もまた、この季節がやってきた。
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