彼と一緒になって八ヶ月が過ぎた。相変わらず僕は彼にぞっこんだし、きっと彼もそう。だろ? これから二人でしたいことはもちろん、彼にしてあげたいことも山ほどある。 二人でしたいことは、まず一緒に市街地に行くことだろうか。そういう、いわゆるデートというものを僕たちはしたことがないから密かに憧れている。(思い返せば大体ベッドの上でまぐわっているけど、もちろんそれはそれで最高に満足。)一緒に書店で本を薦め合ったり、夕飯の食材を選んだり。疲れたら小さな喫茶店で休憩したいな。他には…疾しいものばかりだけど、パピープレイや緊縛。女装や剃毛。それからポリネシアンセックス。気持ちいいことだけじゃなくて、酷いことも痛いこともたくさんしたい。挙げたらキリがないな。 僕が彼にしてあげたいことは、爪切りに、耳かきに、歯磨きに。どうも僕は、彼の身の周りの世話をするのが好きらしい。朝起きて寝るまで付きっ切りで世話したい。だからもし君の両手両脚が千切れても心配いらないよ。僕はずっと傍にいる。 さて、記念すべき100頁目は何を書こうか。案はいくつかあるけど、何がいいかな?ジャン。 |
記念すべき100頁目は、彼との思い出を綴ることにした。 # 彼の第一印象は、男前。野放しにしていれば確実にもてているであろう彼を一人占め出来ていることには、この上なく優越感を覚えている。本来であれば抱く側の彼を抱けることだって僕だけの特権だ。彼のあんな淫らな姿を見られるのは、後にも先にも僕一人だけ。もちろん、僕のそんな姿を晒せるのだって彼ただ一人。 出逢った翌日、声をかけてくれたのは彼の方。あれこれ誘い文句を考えていたにも関わらず先を越されてしまうという、嬉しい誤算だった。 当初はとにかくセックス漬けだったと思う。それはもうどろどろに。当時の様子は未だに僕のおかずとして記憶の中に鎮座している。 彼と一緒に過ごす時間は本当に幸せだ。だけどこの頃は、その反動もあって一人の時間は途方も無く苦しかったことをよく覚えている。既にどうしようもなく彼に溺れていた僕は、何をどうすればいいのか分からなかったんだ。彼を独占したい、僕以外見ないでほしい、指一本触れられたくない。こんな重苦しい愛情を抱いていることを吐露したら、彼は離れてしまう気がした。 #00 だけど、それは杞憂だった。今思えば呆れてしまうくらい「一人でぐるぐる」してた。ね、ジャン。一月経って漸く、彼を僕のものに出来た。あの時渡したプリザーブドフラワーはまだ枯れていないかな。 それ以降は、お互い堰を切った様にどろどろの愛情を交わし合った。諍いが起きた訳でもないのに、好き、大好きって縋る様に伝えながら泣いたこともあったっけ。彼の前ではつくづく情けない男になってしまう。だけどそれも、彼だからこそ。 #01 お互いがお互いのものである証としてピアスを貫通させた。開いたままの口から唾液をだらだら零す彼の姿は堪らなかった。早く別の場所にも開けたいな。 そういえば、女性物の下着を履かされて、赤いヒールを履いた彼に踏まれたのもこの時期だっけ。初めて芽生えた被虐心。とんでもなくサディスティックな彼の一面を知って僕はまた一段と好きになったよ。 クリスマスにはケーブル編みのネイビーのマフラーを贈…いや、サンタクロースが彼に届けてくれたんだ。そして僕の誕生日には、革の手袋とお手製のケーキを貰った。嬉し過ぎて、月並みな言葉だけど夢のようだったよ。お互いのプレゼントで身を包む二度目の冬が楽しみだ。 #02 年の終わりも、年の始まりも、彼と共に。二度目の記念日には揃いの革のブレスレットを贈った。揃いのカーディガンもだっけか。身に付ける贈り物というのは、彼を縛る枷が一つずつ増えていくようでぞくぞくする。 変装して帰宅途中の彼を襲うという強姦紛いのことをして彼に殴られたのも良い思い出。(懲りずに第二回目も目論んでいることは秘密) #03 彼と諍いが起きたのはこのとき一回きり。僕の我が儘の所為で彼を悲しませてしまったことは、未だに思い出すだけで心苦しくなる。僕は彼が好きで、彼も僕が好き。その事実と確信さえあればいいんだ。 仲直りしてから数日後、チョコレートの交換をした。つんけんしながら僕に紙袋を押し付ける姿、可愛かったな。 そういえば、何かの拍子に純白のワンピースを贈ったはずなんだけど未だに着てもらえてない。解せない。着せるしかない。 #04 どうしてか、突然女の子の身体になってしまった。そんな話は本の中だけだと思っていたんだけどな。いや、もしかしたらあれは夢だったのかもしれない。詳細は伏せるけど、異性フィルターのお陰で彼が余計に男前に見えて困った。 それから…特別な日。来年も一緒に過ごそう。 #05 彼の誕生日にはラブレターとカードを。それから五度目の記念日には新しいピアスを。 二人でゆっくりする時間は少しだけ減ってしまったけど、交わす睦言は以前よりも増えた気がする。これって案外すごいことなんじゃないかな。僕と彼は本当に好き合ってるんだって実感する。 #06-08 擽り合って笑い転げたり、紅茶を淹れてのんびり過ごしたり。忙しい日々の束の間に彼と過ごすこの何気ない時間が最高に幸せ。 彼の勧めでいけないこと、に手を出したのもこの頃。…お陰ですっかりはまってしまったよ。 これからも彼の傍にいられますように、なんて願いはもうしない。僕は彼の傍にいる。僕のジャンの傍に、ずっと。 |
ああもう、自分が嫌になる。ぐずぐずに顔を濡らしながら淡々と処理をする様はなんて滑稽なんだろう。右手の平にべっとりついた精液を拭ってはまた同じ単純作業を繰り返す。こんな醜い行為止めたいのに止められない。なんて汚らわしい。なんて卑しいんだ、僕は。違う、僕は彼が欲しいだけなんだ。彼と、ジャンと繋がりたいだけ。奥の方でどろどろになって混ざり合いたいだけ。彼が欲しい、ほしいだけなんだ。欲しい、欲しい、足りない。全部欲しいよ、ジャン。君が愛しくて、苦しい。 |
お前の文字を一つ一つ、なぞっている。 |