気付けば、前にこの手帳に言葉を残してから
随分と間が空いていた。
暑かった記憶が無いくらい
任務に追われ続けた夏をどうにか乗りきり
漸く自分の時間が持てるようになったので、
貴女と過ごした大切で、愉快で、愛おしい時間を
またここに書き綴ろう。
寂しい想いをさせてしまったお詫びには
到底足りないだろうけれど、
秋の夜長に時間を持て余しがちな貴女の
ささやかな楽しみになれば、と願って。
ハンジが、以前から飼育していたという
生き物を容れ物ごと抱えてやってきた。
ある夜、迷い込んできたところを捕獲し
周囲には隠して自室で育てていたらしい。
「顔はね、とてもカワイイ」
顔を上気させ前のめりになって
その生物の愛らしさを力説しているが
コイツにかかれば大抵の生き物――それこそ
巨人ですら「カワイイ」部類に入るようだから
理解に苦しむ。
透明な硝子ケースの底へ視線を送ると、
まだ若そうな爬虫類が尾をくねらせていた。
全身が暗褐色の細かい鱗で覆われており、
小さな四肢の先には趾下薄板が見られる。
ヤモリか。
「ただ、餌のほうも大変なんだよね。そっちも飼
わなきゃいけないからさ。ワームはあまり好まな
くて、小さいサイズのコオロギをよく食べたな。
冷凍物や乾燥物は味がイマイチらしいんだ。やっ
ぱり、人間の食と同じだね!」
「……そうか」
生々し過ぎる爬虫類の「食」語りに
周りの人間は一様に顔を引きつらせているが
ハンジは気にも留めず、楽しげに続ける。
「餌用の小さいGもあるんだけど
一度、脱走されたからなー」
――――オイオイオイ、待て待て。
兵舎にGを持ち込んだ上、
そいつを逃がした、だと……?
ヤモリの生餌(G)を逃がしてしまったことを
悔しげに語るハンジ分隊長の傍らで、
リヴァイ兵長の表情が明らかに強張った。
兵舎にあの虫が解き放たれたとあっては
潔癖症な兵長にとっては一大事だろう。
「……分隊長」
控えめに口をさし挟み、目配せをする。
…この話は、そろそろ切り上げてください。
そんな俺の思いが届いたのか
分隊長は「大丈夫だ」というように微笑んだ。
「あぁ、ちゃんと(餌を)挟む棒があるから」
いや、そんなことを心配しているわけでは
ありません。
あまりにも魅力的すぎるヤモリについて
リヴァイへと熱弁していた時
側に居たモブリットが控え目に声を掛けてきた。
余計な口を挟むタイプではない彼が
そうしたという事は
何か重要な事を含んでいるのだろうか…。
あぁ! そうか。モブリットを含め皆にも、餌を
どんな風にあげているのか説明すべきだったね。
……あれ?変だな。
リヴァイもモブリットも表情が硬いぞ。