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東方逃現郷
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「わわっ…!」 巨大な掌が迫ってくるかのように5方に伸びた触手が、アイリスの逃げ場を封じるように左右からそれぞれ挟み撃ちを掛ける。 アイリスは純粋に落ち着いて『じっくり視た』結果、後ろにステップを踏んで幻惑される事なく触手を躱した。 ほんの一瞬の差で、アイリスがさっきまで居た場所の足元に、怒涛の殴打が打ち付けられる。 「な、何か変…! 攻撃動作に、風を感じない…?」 まだ幻想郷に生息する妖怪の事について何も知らなくとも、アイリスだけが感じられる『風詠み』によって、何らかの違和感に直感で気付いた。 人間や妖怪の括りに留まらず、質量があるなら動作を起こす時に少なからず生じるもの……「空気抵抗」と「風圧」である。 アイリスは、直接目で見るのでは回避の遅れる攻撃に対して、風を敏感に感じ取る事で対応するだけでなく、あるはずのものが無いというヒントをも得ていた。 「う、うぅっ…!」 不定形の妖怪の意識がアイリスの方に向いた為、貝のように二人折り重なって身を固めていたライゼスは、その隙に幻月を抱えながら横へと転がって脱出する事が出来た。 (私とこの弓なら、無理する事なくこの妖怪を牽制できる…!) 妖怪との間合いを測り、それから懸念材料だったライゼス達への援護には成功した。次に、アイリスが弓を射るにあたり、どこを狙うか…。 汚泥の塊のような本体の元に、触手が引き戻される。何か反応を与えれば向こうも仕掛けてくるに違いない、その様子にアイリスは再び目を凝らした。 触手がそうであった以上、あの妖怪を纏うように漂うオーラにも、「質量と言える存在感」が無いはずだった。 球体のように本体を覆う形をしていながら、時折気泡のような、目のようなものが表面にポコッと浮かんではまた黒い闇の中に沈んでいく。 「あれを、狙ってみる?………くっ!」 すぐに矢尻を弦に掛けた弓を引き絞り、次に『目』が浮かんでくる位置を見計らい、弓矢を射った。 パシュ、ゥ…という短い射出音と高く間延びする風切り音だけを残し、矢は妖怪の本体へと飲み込まれた。 まるで効いたような手応えが無かった…。妖怪の方は弓矢にすぐに反応し、アイリスが居るだろう方向を定め、打楽器を乱れ打ちにするかのように振り上げた何本もの触手で虱潰しに地面を打ち付ける。 「きゃあっ!」 アイリスが慌てて身を翻すその位置に、まさに隙間なく埋め尽くすような絨毯爆撃の波が押し寄せ、そのうちの一本に強く腰を打たれた。 堪らずにその場に倒れ込んだアイリスへと触手が殺到し、ライゼスや幻月と同じように、身動きが取れなくなる。 「うっ、こ、これは…!? あの子がこんなに妖力を剥き出しに発するとは…」 寺子屋の子供達の避難を済ませ、慧音が駆けつけてきた頃には、妖怪を囲うような人だかりの手前の方に、 背中に痛々しい腫れ痕を残して倒れ込んだ幻月とライゼス、そしてこれから同じ目に遭うだろう、アイリスが触手に襲われている時だった。 「アイ、リス…。幻月…っ、うぅう…」 「お、おい、無理はするんじゃない…私が妖怪を抑えるから安静にしているんだ…」 まだ意識のあるライゼスの元へ、慧音が駆け寄って制止するように両肩に手を掛けるが、その手を払うように立ち上がる。 慧音の事も、声も、聞こえていないようだ。その目は、アイリスに向けられていた。 (弓…あれで、私達を助けてくれた。同じように、武器が…武器があれば、アイリスの事も助けられるのに) 何が起こったかはライゼス自身にも分からないものの、後悔や無力感や恐怖、そういった己を抑制するものが頭の中で渦巻く。 そして、「何とかしなきゃ」という行動…火種をくべた瞬間、それらは一気に膨張し、ライゼスの体の奥底に爆発を引き起こした。
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