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東方逃現郷
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アイリスが、ライゼスが。拙いなりに、それでも懸命に抵抗するなか。 ……二人の保護者を自認し、請け負う幻月は深い昏倒に身を沈めていた。 ――幻月とても、如何に弱体化著しいとは言え、本来ならばこの程度の一撃で昏倒するほど打たれ弱いわけではない。 今はその力を九分九厘失っていようとも、幻想郷においても上から位置付けたほうが早い――、最強の一角には数えられる大悪魔と、人里に忍び込んで地蔵のお供え物を失敬するのがせいぜいの小妖とではそもそも格が違いすぎる。 ……その幻月がなぜ一撃で此処までの重傷を負ってしまったのかと言えば、それはもう相性が悪い――という他になく。 幻月は名の通り、その実体は夢幻で構成されている、と言っていい。 かと言って実体がないわけではなく、言うなれば本来の身体は何らの影響もなく、彼女たちの住処である夢幻界の館において静かに眠りについている。 ――今、幻想郷に滞在する幻月の身体は、自身が紡ぎあげた……実体と何ら変わらないほどの精度を持った幻であり、そちらに魂を移すことで幻想郷で動いている――という状態にある。 それは妹の夢月にしても同様である。 ――であるがゆえに。精度の高い幻はそれだからこそ、自分以外の幻からの干渉によって簡単にその精度を乱されてしまう、という弱点を抱えることになる。 無論、本来であるならば自身に触れた幻をこそ乱すほどに強固な構成をしているのだが……。妹と離れ離れになり、その力の片鱗すら発揮できない今となっては、分が悪すぎる。 乱された構成を懸命に編み直す。 それに腐心する形になればこそ、まるで気絶するかのように昏倒したまま、ピクリとも動かなくなっている――、という。 そのはず、だった。 否――そうでなければ、ならなかった。 構成を乱されたままではどんな動き――例えば指一本動かすだけ、言葉ひとつ発するだけ。 たったそれだけの動きでなお、魂を剥き出しにするような、危険極まる状態を晒すことになる。 動くことも、話すことも出来ない、してはいけない。――にも、関わらず……。 「あ、い、りす……。らい、ぜす――」 微かな声がこぼれ落ちる。それは、周囲の雑踏に紛れて誰の耳にも入らない言葉。本来あっては成らない言葉。 言葉だけではない。動けばそれだけで、より深刻なダメージに繋がるような状態で、それでもそれまで地に伏すだけだった小柄な身体が、よろめきながら起き上がる。 「お、おい……」 そうすれば、最前までは幻月とライゼスを、ライゼスが妖怪に立ち向かってからは昏倒したままだった幻月の体を守っていた中年男性が声を掛ける。 気遣わしげなその声に、軽く首を振って心配は無用と訴える。 ただそれだけの動作で身体に響くような激痛をそれでも、堪えて。構成が乱れ、歯抜けのように崩れかけた翼を大きく広げて。 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・ その右手に、幻術を持って槍を構成する。――それは、「まるで、お手本でも見せるかのように」――。
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