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東方逃現郷
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これも自分のせいではないだろうか。 戦いの中ではそう思うだけの余裕は無かったが、こうしてひとしきり落ち着くと、そんな強迫観念に襲われる。 いや、客観的に考える事で、ライゼス自身が事の顛末にちゃんと気付く事が出来た…と言えるのかも知れない。 ただ、気付いた時にはいつも手遅れで、おいそれとそんな事を言い出せる状況、言ったところで仕方のない状況となり、 こうして見兼ねた有力者が収拾を付けようとする。 ライゼスに過去の記憶は無かったが、何度も同じような体験をしたような感覚は肌身に染み付いており、 その都度ライゼス自身に無力感と、人との関わりを拒む気持ちを感じさせていた気がする。 ……とうとう途方に暮れて、答えを求めるように傍らで横になっている幻月の方へと目を向けた。 「………、えっ?」 最初は、目の錯覚かと思った。 先を尖らせた触手で貫かれたはずの下腹部、そこには確かに衣服に拳大の穴が空いてしまっているが、 その下に少し色白な肌が覗いており、傷が見当たらなかった。 それだけでなく、自身にも滴り落ちるほどにドクドクと流れていたはずの多量の出血も、彼女のワンピースに残っていない。 それに釣られて自身の体を見回すと、ライゼス自身もまた、触手で打たれた背中だけは衣服が破れているが、 残っているのは地面を転がった砂泥の汚れだけで、思いっきり浴びた返り血が跡形も無く消えていた。 少し服を捲ってみると、心配していたミミズ腫れの痕も肌には見当たらない。あれだけ痛かったのに。 「これって、もしかして…」 衣服にダメージが残っている以上、物理的な衝撃ではあったはずだと思うが、 本来の痛みはもっと軽度なものではなかったのだろうか…? 今はまだ状況証拠しかないから完全には分からないが、有り得る可能性としては… 『妖狐は威嚇や自己防衛のつもりで、敵をひるませるだけの幻覚を使っていたのが事実で、本当に妖狐にはそれが精一杯だった』のではないかと。 「………」 間違いなく妖怪の端くれのはずの妖狐に、人間の身の私がそれだけの事をした…? そこの部分だけは、やっぱり良く分からない。どうして暴走したのだろう…。けど、しかし。 「そっか…幻月、大丈夫なんだ…きっと」 身を呈してライゼスを守ってくれた悪魔の事も、どうして実害の無い攻撃で昏倒するほどのショックを受け、まだこうして目を覚まさないのかは分からない。 けれど、幻月は決して手遅れではない事、それを含めたあらゆる事象をゆっくり理解していく事が、ライゼスに再び立ち上がるだけの活力を与えた。 今一度、振り返って騒乱の場の様子を見てみる。 とうとう慧音が両手を付いて、先頭の一人、一番ヒートアップしている町人の肩を抑えていて、 後に続く人達も慧音を押し倒してしまう事は避けようと、妖狐の元へ殺到するのは思い留まり、ギリギリのところで踏み止まっていた。 アイリスは頑なに妖狐の身を庇い立て、決してその場から離れようとしない。その光景はまさしく、先の幻月の背中と重なる。 きっと、彼らは皆、ライゼスのように考え過ぎたり、思考に囚われていない。その行動に心からの思いが乗っている事こそ、人間であるという証左に感じられた。 だが、そうであれば…妖狐と距離を置いて遠巻きに何も言わず、忌避感を向けている町人…という構図、果たしてどっちが本当の妖怪だと言えるだろうか。 そして、あの輪の先頭にいる男、直情的にがなり立てているように見せかけ、物事の本質とは異なる理論を口にして、大衆の気持ちを扇動している… さっきまではあの位置に自身が居た、とライゼスは己の立場を重ねた。小賢しい人間にだけ、そういう所業が出来るのだ。 あれを止めなくては。ようやくライゼスは駆け出した。
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