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東方逃現郷
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「――――まぁ、善因には善果あるべし。悪因には悪果あるべし。どれほど怒鳴って取り繕ったところで。……もう、本音は透けて見えてるんじゃない?」 地に伏し、手をついて頭を下げて。見ず知らずの、どころかそれまで自身を打ち据えて傷付けた妖怪の許しを請うライゼスに、しんと静まり返る中。その静寂を破るような、第三者の声が上がる。 慧音の、男の、アイリスの視線が集まるその出処は、一先ず寺子屋の近くに横たえられていた一人の悪魔のもと。 ……そう、悪魔。どれほどその性質がそう思えなかろうと。どれほどその姿形が真逆にかけ離れたものであろうと。どれほどその立ち居振る舞いを見た者が彼女を悪魔と想わなかろうと……。 彼女は、悪魔。人の心情に斟酌することもなく、己の思うところを成す、悪魔そのものである。 「幻月……、お前も体は――」 「ライゼスで確認できたでしょ、わたしもどってことないから。流石に、痛みのショックはあって気絶はしてたけどそれだけ、大したことないよ」 ――ゆえに。今自分が動いて、こう告げることで後から周りにどう思わせるか――などということに、斟酌はしない。自分が動かなければ、妖狐は、ライゼスは、アイリスは――そして、場の騒動に巻き込まれただけの慧音まで、どうなるか知れない。 ゆるりと身体を起こして。どういうわけか、真っ青になっている男へと向き直り、一歩踏み出す。 別に、どうということもしていない。怒りの表情を浮かべているわけでもなければ、怒号をあげたわけでもない。幻月はただ、一歩近づいたそれだけである。 にも関わらず、男は腰を抜かさんばかりの有様を晒して、幻月の一歩に対し、数歩後ずさる。何かを口にしようとしているのだろうが、その口からは意味のない声が漏れるばかり。 ――愉悦。 あまり自分でも好ましいことではないが、やはりこのときばかりは愉悦を感じる心を自分の中に見つけてしまう。 悪魔ゆえに――。「幻」を操る悪魔ゆえに。 「――どうかした? そんな、幽霊を見るような顔をして……?」 「ひっ――ひいぃっ!!」 幻月が言葉を発すれば、大の男がまるで泣きそうに顔を歪め、腰を抜かし、ズルズルと這いずって逃れようとする。 呆気に取られるばかりの周りは、気付くよしもなかっただろうが――あるいは、アイリスの抱きかかえる妖狐だけは、その本質を掴んでいたかもしれない。 ――幻月は、既に幻術を発動している。それも、自身のそれは及びもつかぬ精密な何かを。 ……果たしてその想定は正解、幻月は男にとって最も恐るべき相手へと、既にその姿を変えている。 ――男がコレほどに、過剰なまでに妖怪を排斥しよとするその理由。 ……若かりし日の男が、尽きぬ友情を誓った親友。 幾年月か前、里の外へと出掛けた折、自身が助かるために見捨てて逃げ出したその姿。 ……罪悪感から必要以上に妖怪を排斥しようとするその心を、徹底して追い詰める所業を、顔色一つも変えずに行っている。 「ま、ままままってくれ! 俺は、アレは、アレは――!!」 「そんなに誰かににてるのかな、わたしは? ――ねぇ、どうしてそんなに恐れてるの?」 変わらぬ笑顔で一歩踏み出す。変わらぬ声音で無邪気に問いかける。 だが、その所作の全ては、男からすれば恐怖と罪悪以外の何物にもならない。 男の目に写るのは、無残に食い散らかされた親友の成れの果てが、一歩一歩と自分に近づいてくる悪夢の如き光景。 男の耳に響くのは、その親友が「どうしてだ」と。「どうして自分を見捨てたのだ」と発する恨み言。 その悪夢が、目の前に迫る様に。とうとう、男は悲鳴とともに本音を吐き出した。
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