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東方逃現郷
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唐突な衝撃音と、静寂を引き裂く少女の張りのある声に周囲の視線がさっとアイリスに集まる。 全力で殴ったのだろう。彼女の拳は各指の付け根が青紫色に腫れ上がり、擦り切れた皮膚から血が滲んでいた。見るからに痛々しいが、彼女は全く痛みを感じていないかのように村人たちを睨む視線には一片の揺らぎもない。 「な、何を言うんだお譲ちゃん! 皆君たちのために言ってくれてるんだぞ!?」 「そうよ! 妖怪がいるせいで皆がこんなに怯えて生活することになってるんだから。妖怪がいなくなって何が悪いって言うの?」 我に帰った村人たちたちから上がる反論の声。その声音にはアイリスに対する疑惑と憤怒がありありと込められていたが、それを一身に向けられるアイリスは小揺るぎもしない。 「それが府抜けてるって言ってるのよ! 私達のため? ふざけないで! あなた達が考えてるのはライゼスを言い訳に使ったただの保身でしょう! ここに住んでいる妖怪たちが何をしたって言うの? みんなあなた達に迷惑をかけないように気を付けて生きてるのに、そんな身勝手で追い出して。人間は守らなきゃいけないけど妖怪は殺しても構わないなんて、そんなんじゃどっちが化物かわかったもんじゃないじゃない!」 アイリスのその言葉は明らかに村人たちの琴線を逆撫でし、アイリスへの怒りのボルテージが増していく。自分たちは彼女のためを思って言っているのに、その相手から噛み付かれれば面白かろうはずもない。 「な!? 誰が殺すと言った! 私たちはあくまで人と妖怪の棲家を明確にしてだな」 「それが見殺すって言うのよ! 本当に悪い妖怪がいるって言うならこの村がこんなに発展する前に何かしらのアクションがあるんじゃないの? でもそんな物ないじゃない! つまりはここに住んでる妖怪たちだって私達と同じ、一人では生きられないからみんなと協力し合って生きているんでしょう! それを妖怪だからって理由で追い払おうとするなんて、死ねって言うのと何が違うのよ!!」 アイリスの言葉に場がシンと静まり返る。しかしそれは、先ほどのアイリスが壁を殴った時の静寂とはまったく違う。それはさながら嵐の前の静けさ。周囲の人間たちの間に不穏な空気が立ち込めていく。 「ちょっとアイリス! あなた何言ってるの!? 言いすぎでしょ!」 「お姉さん……」 その空気を敏感に察したライゼスが慌てた様に静止し、妖狐が心配そうに見上げてくるが、アイリスは引き下がらない。 「何なのこの子!? 妖怪なんかの肩持って……もしかしてこの子、妖怪が変化してるんじゃないの!?」 「そうか! きっとそうだ! よくも俺たちを謀りやがって。ぶちのめしちまえ!」 血気に逸った若い男が民衆の中から飛び出してアイリスへと拳を振り上げる。アイリスの後ろで妖狐が息を呑み、ライゼスが駆け寄ろうとする。しかし、土下座をしていたライゼスが間に入るのは明らかに間に合わない。 ――パシィィン 誰かが息を呑む音。男の拳が肌を打つ乾いた音が人里に響いた。
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