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東方逃現郷
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「一体、何をやっているのかしら、私は…」 地に膝を付けてまで正座している、そのままの格好で放心していたライゼスの口から零れた言葉がそれだった。 この望まぬ展開を変える、それだけの為に頭を下げたはずだったけれど。 しかし村人達は、このような災いを引き起こす体質を持った自分を追及しないどころか、保護しようとする。 『正直言って、今の今まで保身ばかりを考えていた村人がどうしてそんな余裕を見せるようになったのか』という掌返しの意図は、 ライゼス自身には全く分からなかったものの。それはまた望まぬ展開であったにも関わらず、耳心地の良さに、思わず顔を上げてしまったのだ。 待遇を期待してしまうくらい、ライゼス自身にとって都合の良い話だった。そう刹那的に感じてしまった事をまた、今になって後悔する羽目になった。 騒動の発端が、この妖怪でもなくあくまでライゼス自身にある事を踏まえ、頑として責任を主張し続けなければならなかったのだ。 あぁ…ライゼスの目の前で、華麗に小悪党な男の企みを打ち砕いた幻月が、体の力を失って後ろ向きにくずおれるように倒れていく。 ライゼス自身の導くべき道を切り拓いた一筋の光明のような、希望の象徴だった。もうライゼスには幻月に手を差し伸べるだけの気力も残っては居なかった。 目の前では、ライゼスと異なり妖怪を身を呈して庇い続けたアイリスが、とうとう暴動の波に呑まれようとしている。 どうして彼女のように、はっきりと『貴方達の保護だなんてむしろ迷惑です、責任は自分で取ります』と声高に主張を続けられなかったのだろうか。 付き従った人間には同調するが、反発した人間には報復し、妖怪は元からその道理ではない。なんて短絡的で破綻しているフェミニズムなんだろう? ライゼスはいつの時代にもそういう人間の愚かな面、先見性の無い面を見せ続けられて生きてきた、そんな感覚を覚えていた。吐き気がする。頭が眩んでくる。 体の前に片手を付き、反対の手でこめかみを抑える。瞳を細めて見据える視線の先に、村人のほんの気まぐれな愛想を受けられなかった、もう一人の少女と無力な小妖怪の末路が見えた。 あのようにして、環境にそぐわぬものは排斥されて行くのだろう。自身が気を失ったら、きっと次は恐らく、既に無力化されていて鎮圧する必要もない、この天使のような悪魔。 『どこか放っておけない子』と、いつか言われた気がした。何故、本当に放っておいてくれなかったのだろう。 はぐれものに属して、はぐれもののままで、同じはぐれものに退屈凌ぎの余興を与えるだけで良かったのに。ただ見世物にされる為に、その居場所からも引きずり上げられていく。 普段は私を子供のように愛したりはしなかったくせに、手懐けられる余地があると分かれば心変わりしたかのように、今になって手遅れな恩情を与えようとする。 私はそういうところで矛盾を覚え、人間を嫌悪し、同じ生物学科に属しているという事実を嘆いていた。 ……もう何も考えが定まらず、そこでライゼスは意識を手放した。 刹那に脳裏に焼き付く、さすらいの行僧の後姿に…隣人にも手を差し伸べるという優しさの可能性を感じさせる、現実に存在し得ない母性の象徴、まるで人ならぬ『神』の存在を感じながら…。
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