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東方逃現郷
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――それは夢か現か……、などと。自分が口にするにはあまりにも愚問に等しい思考が、頭の片隅に湧きあがる。 直前、自分が何をしていたのか、それもいまいち思い出せないが、それ以上に今自分がどこに居るのかもよくわからない。 前後左右。上下に至るまで視線を巡らせてみるが、あるのは何もない真っ白な空間ばかり。 ただ、自分が「仰向け」になっている――なれていることから、恐らくそんな概念自体が存在しないのだろう――という想像はついた。 其処まで確認してから、もう一度考える。さて、ここは何処だろう。 うっすら思い出してきた。確か自分は、幻体を乱されることで大きなダメージを負い、その状態で更に無理を重ねたせいで意識を失ってしまったはず。 にも関わらず、身体のどこにも苦痛はないし、動かない場所というのもない。足の指先まできちんと動くのを確認した辺りで――。視界の片隅に、誰かの影が浮かび上がるのを感じ、半ば条件反射でそちらに目を向けて――。 投げかけようと思っていた誰何の声が、喉の奥で凍りつく。 「――だから、言ったのに」 そんな此方に斟酌せず、その影がどこか呆れを含んだ声音で――、『他の、誰の声よりも聞き慣れた声』で言葉を発する。 聞き間違うわけもない。それ以前に、たとえ影であっても自分がそれを見間違うはずもない。 「……夢月――」 自分の体ながら全く現金なものだと想う。自分たちは二人で一人前、二人揃ってやっと本来の力を発揮できる。 ずっと側から離れていた自分の半身の存在を認識した途端、身体の奥底から発揮できずに居た力が漲ってくるのが感じ取れ、すぐさまそちらへと向き直る。 此方の姿勢が整うのを待ってから、影――夢月が、再度口を開く。 「言ったよね、姉さん。……人間なんて所詮、自分のことしか考えない。少しでも自分たちと違えば、それだけで排除にかかる浅ましい生き物だって」 夢月の語る言葉には、抑えようともしない侮蔑が込められている。自分に向けられたものではなく、個人に向けられたものでもなく、人間という種に対する心底からの嫌悪感。 もともと、夢月の世界というのは夢月自身と、幻月の二人だけで完結してしまっているフシがあり、一応友人として幽香や他数名を認めてはいるものの、去るなら追わず、居ないなら居ないで構わない、で済ませてしまえる範疇である。 ――夢月が手放さない、手放せないほどの執着を示すのは双子の片割れ、姉である幻月のみ。 ……ゆえにか、自身が忌み嫌う人間に対しても、幻月が一定友好的な態度をとることには、苦言を呈することもそう珍しいことではなかった。 だが、ここまではっきりと言葉を重ねるのはこれが初めてであり。幻月も、妹が抱える闇が自分の予想を遥かに超えて根深いものだったと理解せざるを得ず、反駁の言葉は発せない。 沈黙を守ることを同意と受け取ったのか、夢月が一歩此方へと歩みを進める。手が、差し伸べられる。 ――幻月には、判っていた。その手を握り返せば、自分はすぐにも夢月と本当の意味で再会できる。 この空間は夢月が作り出した夢の世界。夢月と接触さえすれば、あらゆる空間を飛び越えて、夢月の目の前まで引っ張ってもらえると。
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