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東方逃現郷
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「もう判ったでしょ? 人間と関わったってロクな事にならない。わたし達に関わりさえしなきゃ、別にどうなったって、どうしたって構わないんだから――早く夢幻界に帰ろう?」 その言葉には、声音には、内容と裏腹の懇願するような響きすら感じられる。それほど、夢月にとっては自分の唯一無二が、自分の忌み嫌うものを気にかけるのが看過しがたいものなのだろう。 誤解のないように言えば、幻月とて二択であるなら迷わず夢月の手を取る程度には妹を特別視している――まぁ有り体に言って割りと取り返しのつかないレベルのシスコンである自覚はある。 だが、それでも悪魔としての種族柄か、はたまた個人の性格ゆえにか。一度関わった案件を放り出してその手を握り返すことはできず……。 夢月も、期待していた即答がないことから姉の意を汲み取ったのか、小さく息をついて手を引っ込める。 ようやく伺えるその表情は、「仕方ないなぁ」と言わんばかりの苦笑。失望や傷ついたような色がなかったことに少しだけ安堵しているところに、夢月の言葉が再度重ねられる。 「――判ったよ、姉さんの性格は誰より理解してるつもりだしね。……まだ見放せないんでしょ?」 返す言葉もない。実際、誰よりも自分を知り尽くすのは目の前の妹をおいて他に居ない、という実感はある。それは逆もまたしかり、ではあるのだが。 ゆえに、続いて掛けられる言葉も十分に予想の範疇。それでも、実際にそれを口にされれば少し、身が引き締まる思いはしたが。 「良いよ、無理に連れ帰って嫌われるのも嫌だしね。……こういう形で連れ帰るのはなしにする。でも、そのかわり――。 ……幻想郷で、ちゃんと顔を合わせたら。本当の形で、ちゃんと再会したら。その時は、そこでおしまい。……ちゃんと一緒に帰ってくれる?」 それでも、提案という形で確認を取ってくる辺りが、妹の妹たるゆえんだと想いながら――。しっかりと頷き返す。 「――それでいいよ、夢月がわたしを捕まえたらそれでおしまい。幻想郷全域使った鬼ごっこみたいなものね。 ……見つけたからって油断してたら逃げちゃうかもしれないから――ちゃんと捕まえて見せてね?」 挑発めいた言葉を、挑発めいた表情で付け加える。言ってみればそれは、期待を裏切ったことへのちょっとした埋め合わせ。伝わるかは別として、ちょっとした意図を込めた言葉――だったのだが。 それに拠る言葉による返答はなかったが、夢月がその裏に込められれた意味合いを明確に悟ったらしいということは、すぐに理解が及ぶ。 俄然、やる気を出した空気が肌に伝わり――。一瞬、自分の行動を後悔しかけたところで、ふっと身体が浮遊感に包まれて……。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 「おっと、ナイスタイミング。ちょうど起きたところでしたか」 パチリと目を開けば、見知らぬ部屋の中。洋館に住まうがゆえ、あまり馴染みのない和室に、恐らくは来客用なのか新品の匂いがする寝具。 そして、これまた見慣れない服に身を包んだ見覚えのない黒髪の少女。彼女の姿勢と、額にひんやりした感覚があることから手ぬぐいを変えてくれようとしていたのだろう、ということが察せられる。 初対面のはずだが、シャツから短パン、頭に乗った帽子に至るまで白を基調としてまとめられたその装束は、彼女によく似合っているな――と場違いな感想を抱いているうち、すっと少女が立ち上がる。 「とりあえず今、聖とお連れの人呼んできますから。まだキツイようなら、もうちょっと横になってて大丈夫ですよ」 にかりと笑ってそれだけ言い置き、手を振って出て行くその後姿を見送り――。襖が閉められてから、ようやく本人に向かっては投げかけられなかった疑問が、喉の奥からこぼれ落ちる。 「……え。いや――なんで、背中にアンカーなんて背負ってるの……?」 ――幻月の疑問に答える声は、どこからも帰ってこなかった。
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