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東方逃現郷
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アイリスは夢を見ていた。それは真っ白な霞の中にいるようでふわふわと心地よく、 されど捕らえどころのないそこは先の見えない恐怖感も彼女の心に抱かせる。 『私は……こんなところで何をしているんだろう?』 自問するも応える者はいない。生まれながらに身についていた予知夢を見る力。 幸せな夢も不幸な夢もどれだけ努力しようと変わらない結末に少女は疲弊し、全てのことに絶望してしまった彼女は、 後はこのまま転機もなく生きたまま死んでいるような日々を過ごすのだろうと考えていた。 『……―――……』 不意に少女の耳朶が何かを捉える。 女声らしい声が聞こえた気がしたのだが、待ってみても耳を澄ましてみても辺りは静まり返ったまま。 霞がかった変哲のない風景を少女に返すだけだ。 「気のせい? でも、たしかに……」 一文字たりとも聞き取れなかったはずなのに。 どうしてかアイリスは自分が呼ばれている感覚に無意識に歩を進めていた。 霞の中を歩き続け、視界が開けた先――。 「……あれ?」 アイリスは鬱蒼と生い茂る草むらの中で目を覚ました。 何でこんな場所に寝ているのか皆目見当も付かない。 前後の記憶を振り返ってみるも、夢の内容でさえ事細かに覚えているのが常の自分にしては珍しく、 ぼんやりした夢の印象だけを残して手がかりになりそうな情報は何も思い出せなかった。 「何でこんなところに? 私が寝てる間に捨てられちゃった……とか? ま、まさかねぇ。あはは……」 冗談めかして気を紛らわせて見るも、ここ暫くの両親の姿を思い描いてみれば冗談が冗談と思えなくなるには十分で。 自分で抱いた想像にじわじわと恐怖心が込み上げてくる。 「何なの? ここはどこ!? い、嫌だ……お父さん、お母さん! なんでこんな、私は……ひぅ!?」 今にも叫び出してしまいそうな極限の精神状態。そんな中、突如としてすぐそばの茂みから飛び出してくる影に、 少女は思わず悲鳴を上げてへたり込んでしまう。 「……! た、立てる? 今はその、えっと…とにかく一緒に来て! 逃げないと…。襲われるわよっ…貴女も…!」 かけられた声に恐る恐る見上げてみれば、そこに立つのはれっきとした少女。 赤の他人とはいえ、自身と同じ人間の姿に安堵したのもつかの間、気付けばアイリスは彼女に半ば無理矢理に立たされ駆け出していた。 「な、何がどうなってるんですか? ここはいったい……ちゃんと説明してください」 背後より迫る不穏な足音を背景に、少女の悲鳴が茂み一帯に響き渡ったのであった。
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