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東方逃現郷
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「っ……。どうする…どうする…。えっ? 何か言った?」 自身と同じく、今の状況を知らない、あるいは慣れている様子も見えずに言及を求めるような眼差しを、後ろ手に振り返って見返す。 そんな彼女の身柄を引き受けた時点で、責任と強いプレッシャーを感じて、 頭の中は目の前の事態の対処を考える事だけでいっぱいで。 「ですから…どうして逃げているんですか? 説明を…」 「説明って言われたって…えぇと…、今じゃなきゃダメ?」 場面に合わないような事を改めて要求されているのに、自身の方が戸惑ってしまい、 ろくに返答を返せない。かといってはっきり断る事も出来ない。 この地に至るまでの記憶そのものは綺麗さっぱり漂白されているのだが、ライゼスは、きっと自身は昔から ずっとこう…不器用だったのだろうと思うと、比較的に超早く、 自意識を取り戻してからほんの数分で、己の人生に諦めを抱いた。 ……背後から忍び寄る死神のような何か。 『あんな現実離れした存在が居るのなら、私の過去に何が起こっていようとも可笑しくは無い』 と、パニックから一転、絶望感をそのままに現状を受け入れ。 そして、この場において何も知らない隣の少女もまた、多少の差異はあれ、自身と似たような…そういうシンパシーを感じていた。 ライゼスは、逆境の中において、自身の保身と、そしてその自身よりも優先すべき大事なものを考えてこそ、冷静であった。 「…伏せてっ!」 「きゃあ!?」 今度は、この場の問答は無駄と割り切って、押し倒すような形で強引に身を伏せさせた。 頭上の木の枝が纏めて薙ぎ払われ、木の幹には同じ高さに遠くまで一条の切り傷が刻まれていた。 ……まるで質量のある刃物でも頭上を通過したようであった。 「わ…私も、一体何がどうなっているか、ここは何処なのかだって、まるで分からないの。 だから今はこの場を切り抜ける事を考えて…いい?」 「は…はい」 再び、少女に驚かせたような表情をさせた事に、胸がちくりと痛むような罪悪感を感じたが。 今度は迷いも躊躇いも抱かず、ちゃんと言えた。 「私…、これで間違ってない…よね? なんて、聞かれたって逆に困ると思うけど…今はその。信じて…」 「……」 いたたまれなくなって、自身の行動原理を少女に問いた。 あまりに情けなかったが、掌を握り返す指先に籠る力がぎゅっと確かなものに変わった事を… その変化を言葉以上に感じると、少し報われた気持ちになった。 茂みを切り抜けて、拓けた場所に出るが、しかし眼前には切り立った断崖が行く手を阻んでいた。 ロッククライミングの経験さえ無いような、普通の少女二人が登って逃げ切るのは、あまりに険しく現実味も無い話で… 無慈悲に逃走経路を塞がれている、そういう実感を伴う冷たい心地で、足を留めた。 これ以上追う必要も無いというように、狩猟者も奥の茂みから姿を現した。 思った以上に小柄で、胴体の細長い小動物であったが、指先よりも2倍は長く鋭い爪を持ち、 また体の周りを吹き荒ぶような風が旋回して、纏っていた。
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