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東方逃現郷
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藪の動きを上空から追いながら飛行することしばし。 程なくして目に飛び込んできたのは、果てしなく広がるように思えた藪の終わり。 一定拓けた場所――だけ。その先につながるはずの道、恐らくは追われているのだろう誰かが命を繋ぐための道は其処にはなく。 恐らくは追い詰める側はそれを承知で、此処まで追い詰めたのだろう。狩猟者としては的確だが……。 希望を与えたあと絶望につなぐようなそのやり口は酷く癇に障る。 ……と、そんなことを思っているうちに、二人の少女が転がるようにして藪の中から飛び出してくるのがみえる。 と成れば、追われる側が二人……、自分が排除すべき対象の方は一人で済む、と冷静に見定めながら、 続いて出てくるはずの狩猟者を見定めようと、目を凝らす。 ……とは言ったものの大体の想像は容易……、先ごろ藪を裂くようにして通り過ぎた風。 ……それほど大したものではない、というところまでは推察できた。 となれば、風を操る妖怪の中でも上位に位置する、天狗ではありえない。 そも、天狗は人間に対し一定友好的な妖怪だし、人食いの性質があるとも寡聞にして聞いたことはない。 「……カマイタチか。それも、多分はぐれかな」 本来カマイタチは、三位一体。 それが、単独で狩猟をしているということは何らかの理由で連れ合いを失ったか、はぐれたか。 今の自分に多少近いものを感じはするが――。 一見して無力な少女二人を追い詰める側であるのなら、残念ながら彼らの味方をしてやることは出来ない。 緩く片手を持ち上げ藪の出口へと手のひらを向けて――。姿を表したその細長い身体めがけて一筋の光線を撃ち込む。 ……十分な速さ、それなりの太さはある一閃とはなったが――。 同時に、自分の現状を思い知らされ、内心歯噛みする想いは抑えられない。 本来であれば、一抱えはあるほどの巨大なレーザーを放てるスペルであると言うのに、今となってはこの体たらく。 本来の威力で放っていれば、少女たちもそのまま巻き込んでいただろうから、結果オーライではあるのだが。 素早く少女たちの元へと降下し、少女たちとカマイタチの間に着地――そのついでで、自分の攻撃の成果を改めて確かめてみる。 「……まぁこんな程度でやられちゃくれない、と。まぁ判ってた」 相応のダメージにはなったようではあるが、戦闘不能には遠い。良いところ軽傷、と言ったところだろう。 ……言葉はわからないが、狩猟の邪魔をしたことに対する怒りや不満のような気配が向けられるのは判る。 改めて背後を確認する。切り立った崖は、自分が足止めを買って出たとしても、 少女たちが降りるにはあまりにも険しいことは見て取れる。 以上、2秒で纏めた思考の総括。 「……うん、だめだこりゃ。貴方達、割と詰んでる」 守りながら戦うには足場が悪く、時間を稼いだところで少女たちが逃げる事は叶わない。 得物の一つもあれば別だが、徒手で戦うには今の自分では分が悪すぎる。 くるりと少女たちに振り向くと、軽く片手で謝罪を示す動きを見せる。 自分がいくら時間を稼いだところで少女たちが逃げる事は叶わない。 で、あるなら少なくともこの場で行動不能に追い込むか追い払うかするしかないだろう。 「まぁ、生きるためにやってることだし、出来るならさっさとこの場から逃げ出して終わりにしたかったけど」 前者は得物の一つもあれば何とかならなくもない、だろうが……都合よく武器など持っているわけもない。 と成れば、手段は一つ。 「――――――――。」 詠うように紡がれる詠唱、少女たちにも――そして恐らくはカマイタチにも、何を意味するものなのかは理解できなかっただろう。 もっとも、カマイタチの方はすぐに身をもって理解できたかもしれないが……。 「……良し、効いた効いた。でも、あんまり長くは保たないから。 わたしの術が聞いてるうちに逃げるよ、でないとわたしが大変なことになっちゃう」 下級妖怪と言えど素手で、人二人守りながら戦うと成れば相当難儀するのは避けられない。 状況が飲み込めていない様子の二人に理解が及ぶのを待たず、素早く二人の腕をつかむと、 二人――(三人?)が出てきた藪の中に再度飛び込んだ。
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