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爪痕、
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洗って、切って。 ある朝、彼を殺した。 何度も刺すような陳腐な殺り方はしなかった。其の手口はこうだ。 私は彼に気付かれ無い様に変装をしてから、外出しようと部屋から出て道を歩く彼に声を掛ける。済みません、道を御尋ねしたいのですが。彼はあゝ見えて御人好しだから無視はし無い。そうして人気の無い道を歩くような場所に案内させて、後は刺すだけだ。 君が悪いのだよ、私に嘘を吐くからと私は云った。云いながら刺していた。深く、抉るように。次いで、私は嘘を吐かないから、約束を果たしに来たよと云う。刃物を抜いて、もう一度深く刺しながら。 現実はそう簡単に殺られてくれるとも思って居ないし、そもそも只の妄想なので現実の私では無いからそうしたい訳でも無い。只妄想をしただけだ。 そんな妄想をした直後に彼と数日振りに逢った。 さっき一度脳内で死んだ彼と其れは其れは愉しく話をして、最後は抱擁してお休みと告げ合った。 そうして話す直前までは、数時間置きに脳内の私が、死にたい、寧ろ死んでくれと呟いていたのに。其れがすっと消えていった。 満たされていた。紛う事無く、現実の彼に満たされた。 罵ったって殺したってきっと満たされる事は無い。 彼は、私の水だ。大袈裟では無かった。 一回飲めばずっと生きていける身体なら良かったけれど、直ぐに喉は渇くだろう。そしてまた脳内で殺すのだ。淡々と。取り乱したりはせずに。 死なれたら、私も生きていけない癖に。 如何して私達は出逢った、のか。
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