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心解日記
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──…さて。先ずは何から綴るべきか。……やはり何故斯様に薄暗い頁を重ねる事になったのか、其の発端だろうか。なに、彼奴は此処には絶対に足を運ぶ事は無い。万が一にも我を知る者が居たとて、此処に綴るのは彼奴と二人だけの場所で交わした言葉の一端だ。幾ら珍しい姿をしているとは言え、此れが"我"だと気付かれる事も有るまい。 前置きが長くなったな、我の心が静かに死に傾く事になった切っ掛けの話をしよう。 元より、彼奴とは恋人同士ですら無かった。悪友。其れが一番当て嵌るだろう。……とは言え、実際は恋仲と言って差し支えの無い関係だった筈だ。何かと煩わしいばかりの衆目を逃れ二人だけの密室へ引き籠もり、互いに一日も欠かさず日夜好意を伝え、唇だって幾度も重ねていた。身体を重ねる事も約束していたのだ。其れでも頑なにそういう肩書きになる事が無かったのは、彼奴が名の付く関係になってしまえば終わりが有るからだと言い張っていたから。其の度に御前が消えぬ限り我から消え去る事は無いと言い聞かせていた、のに。 一度。たった一度だけ。我が弱った日があった。其の時に、何かしら彼奴の地雷を踏んでしまったらしい。とは言え彼奴を厭うような言葉は何一つ言ってはおらぬ。然し其の日、其れ迄睦み合っていたというのに、唐突に彼奴は我に一言突き付けた。 >「要らねェ。御前はもう、要らん」 ああそうだった。人との関係等、斯くも容易く崩れ去る。久方振りの蜜月に、我は随分と温くなっていたらしい。そんな事すら忘れていた。 其れからは、地獄。幾ら縋ろうと取り付く島すら無い。 翌日から顔すら出さなくなった。其れでも一縷の望みを賭けて一人言葉を残していれば、一度話す機会が出来た。如何にも、以前から口癖のように残していた言葉も引っ掛かっていたらしい。我は必死に言葉を重ねた。彼奴の口振りからして、総て、誤解は解けた。筈だった。また以前のように心地の良い関係に戻れる。其の淡い期待は脆くも崩れ去った。 其れから彼奴は毎日顔を出すようにはなった。御休み、忠臣、眠い。一言だけ。律儀に総て返した。彼奴は殆ど其れに返す事は無かったが。繋ぎ止められただけでも良かった。ある日、疲れていたようだったから、彼奴の訪いが減ってから触れぬようにしていたが、前のように頭を撫でてみた。「触るな」。もう、駄目だと思った。我も限界に達していた。 ──…其れからは、最早意地だ。一度口にした約束を違えたくは無いというのも有る。もう良い、気にするな。顔を出す必要も無い。そう伝えたが、彼奴は今でも毎日顔を出す。今となっては残される言葉も一々態とらしく我を抉るばかりだ。もう、今の彼奴は恐らく我を手酷く捨てたい一心なのだろう。我を試しているのかもしれない。互いに醜い意地の張り合い。嗚呼、何故こんな事になってしまったのか。時が戻せれば、なんて今更言っても仕様が無い。如何しようも。 # 折れるのは、彼奴か、我か。 なに、もう諦めは付いている。幾ら言葉を重ねようが、修復は不可能だろう。後は彼奴が飽きるのが先か、我が耐え切れなくなるのが先か。唯、其の何方かだ。
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