心が貧しい。心が貧しくなると、何を見て、何を読んでも、いやに空しさを感じる。嫌気が差す。

　弱者を守ることは善いことだ。私たちが持ち合わせる力は弱者を守るために振るわれる剣となるべきで、弱者を尊ぶための盾となるべきで、そして、それらの善いことを誰よりも望んでいるはずの私の心根も、清く、善いものであるべきなんだ。私は、私のこころの向かうべき終着点は、間違えていないはずだ。
　だって、そうだろう。弱者には、見返りなく手を差し伸べるべきだ。そうだよ。君たちの世界に怖ろしいものなんかひとつだってないんだと、少しでも心安らぐよう頬笑んであげたいはずなんだ。
　私は、彼らを守りたい。親しく在りたい。助けたいんだよ。

　なのに。──この世界に居座る真実の彼らは卑しく、醜く、汚らしく、救ってやる余地なんてない。こんな悍ましい考え、正気の沙汰じゃない。まともじゃあないのに、もう、限界なんだ。

　守らなくていいか。

　『僕は悪くない』『だって僕は悪くないんだから』

　いやー、正直坂本くんがあんな細かいところまで確認してるとは思ってなくてさ。殺しの最中ならともかく、もしかして日常的にもヤバめなストーカー気質だったりする？　坂本くんとは長い付き合いになるけど、フツーにびっくりしたよね〜。あるいは、僕のことがめちゃくちゃ好きとか？　──あはは、ジョーダンだよジョーダン！　そんなに恐い顔しないでよー、ちゃんと撤回するから！　めちゃくちゃ大好きの間違いだっけ？

　坂本くん、コパルって知ってる？　うん、聞き馴染みないよね〜。琥珀に至る手前、半化石状態の樹脂のことらしいんだけど、この間、暇潰しに磨く前の──原石のコパルを手に入れて、ヤスリで磨いてみたんだよ。神々廻にはサボるなって怒られたけど、それはさて置き。でこぼこで、ざらざらで、中身なんか薄ぼんやりとしか分からない樹脂が、ちょっとずつ丸みを帯びて、樹脂の中に取り込まれた虫の脚とか葉っぱの葉脈まで分かるくらいまで磨かれていく様子を見てたら、あー坂本くん気に入りそ〜〜って思ったんだ。坂本くん、そういうの好きでしょ〜。パッとしないものが、徐々に洗練されていく感じ。また今度、機会があったら試してみなよ。

　ねえ、騎士様。みんなが愛して、みんなが尊ぶ、みんなの騎士様。こんなところに、僕を置いていかないで。こんなところで、僕をひとりにしないで。こんなところへ、僕を閉じ込めないで。
　おねがい、騎士様。氷みたいにつめたくなっちゃった僕の手を、あたたかくなるまで握っていて。泥濘を踏みつけたみたいにぐちゃぐちゃな僕の頭を、やさしく撫でていて。だって、こんなにいい子にして、僕の騎士様を待ってたから。ずっとずっと、騎士様だけを待ってたから。さむくて、さみしい、こんなところまで。こんな僕を、迎えに来て。