XXX / XX
いつの間に眠ってしまっていたのだろう。
アイツではない人の声に呼ばれて目覚めて、朦朧とした意識の中で辺りを見渡せば
そこは、知らない筈なのに何故か懐かしいような気もする景色。
遠くで、石焼き芋でも売っていそうな少しだけ焦げ付いたにおいが鼻についた気がして
何となく、おなかがすいたような。そうでもないような。
「何ぼーっとしてんの、お前。」
そういえばこの声で起きたんだ、と思って視線を向ける。
誰だっけ、これ。あぁ、そうだ。確か…。
「クロちゃん。俺は寝てたんじゃないの、考え事してたの。」
自分の口が動いているのに、自分じゃない誰かが口を開く。
そうだ、そうそう。クロちゃん。クロちゃんって…誰だっけ。
「へーへー、イエースボース。そろそろアイツが来る筈だから、二度寝だけはすんなよ。」
「しないよ。クソ可愛いアイツが来るんだから、全力でお迎えしなきゃね。」
「ならヨロシイ。じゃあ俺の方は他のご一行をお迎えに行ってくるわ。」
「はーい、いってらっしゃい。お土産楽しみにしてるよ。」
いつもより寝癖頭のクロちゃんを見送って、もう一度俺は椅子に身体を深く沈める。
こんな爪じゃバレーも出来ないなんて思ってる俺とは別に、
アイツの事を考えている俺も居る。
でも、脳裏に浮かぶアイツの姿はいつもと違って、俺に殺意を向けて来る瞳で見据えて来る。
アイツをここで迎えるのは何度目だろう。
何度だってあの瞳と対峙して、何度だってその姿を見送っていく。
血塗れの身体で俺に縋りつく殺意、敵意、憎しみ。
俺は、それを複雑な気持ちで見下ろしながら笑っている。
きっと、今度も同じ結末だ。
アイツに、俺の想いなんて微塵も届く事はなく繰り返される「日常」。
きな臭い、焦げた臭いが室内に充満していく。
きっと他の部屋は、もっと鉄臭いにおいで満たされているんだろう。
俺達の「日常」は、こうして何度も繰り返されている。
アイツの知らないところで。
俺はそれでも、何度だってこの手で…―――
「ぐえーっ」
自分の声で目が覚める。カエルが潰れたような声とは、きっとこの事を言うんだろう。
目が覚めればそこには見慣れた天井があって、
やけにリアルな夢を見ていたんだと即座に気付く。
頬がチリチリするような熱、鉄分を多く含んだ鼻に付くにおい、明確な敵意。
ゲームし過ぎたかな、なんて思いながら俺の身体を縦断する腕を持ち上げて、
隣へと戻すついでに顔へと視線を向けてドキリとした。
「また俺をその剣で刺すんですか?オイカワさん。」
囁くような声が聞こえて、アイツの瞳がギラリと光った気がした。
明確な敵意を持つ、その夜色の瞳が。