ありがたい事に、「クリスタ」という偶像を愛する人は多い。とても。
あの振る舞いが全て偽物だったとは言わないよ。私はクリスタとして、友人には優しくしたかったし、ずっと仲良くしていたかったし、みんな大好きでみんな等しく大切だったもの。

友情以上の好きはいらないの。

友達を100人作ろうとしても、過半数は私を好きになってさよならしていくんだ。「自分だけを見てくれないのなら要らない」なんて、寂しい世界。

お願い。私を見ないで。
私を好きにならないで。
ううん、好きになってもいいよ。だからその気持ちを私にだけは見せないで。

私はユミルが好きなの。この薄汚い感情を、衝動を、全て明け渡したのはユミルだけなんだから。

恋することが出来なくても、愛することは出来るんだよ。恋はひとりでも出来るけど。愛は、あなたがいないと育めないの。ねえ、ユミル。理屈じゃないの。そばにいたい理由なんて、探さなくてもいいでしょう？

憲兵団ならば出世は栄誉であり堕落する権利でもある。しかし我が調査兵団では、昇進すればする程に死亡率が上がるだけだ。
誰に感謝されることもなく唯、責任と十字架だけがのし掛かってくる。押し潰されるくらいならば末端の兵として居る方が幸せかもしれない。
それでも私は、その現実を直視してなお、お前に班長を任命したいと思う。やってくれるね、ーーーー


絶望色の瞳で彼が頷くのを空虚に見ていた。
私の唇が紡いだ言葉はまた未来を奪う。
人類を救う為なら、と応じた彼が、只管に眩しかった。いつか私の喪った希望は彼の掌に温められていた。


優しい人から死んでいく。人生に運命にそんな理論があるのなら、私は可及的速やかに死ななければならない。

世界を知りたいとの好奇心を内包した、人類の為と云う大義名分で向かった壁外調査で果たして何人死んだのか、使い潰した命の数を忘れて幸せになる事だけはしないと誓える。
ーーー私は優しいから。十字架を抱いて安眠する。