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┗部屋主の暇つぶし
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1 :りゅう
05/12(火) 20:46
単なる暇つぶしだよ!
(Mac/Safari)
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11 :りゅう
05/17(日) 03:55
6.思い残すことはありませんか?
紫陽花学園におけるVR生活課題は、午後の二時間を使い、全校で一斉に行われる。
専用のVRゴーグルを装着すれば、一般的な科目を学習している教室内から、お手軽に異世界転移が可能である。
VR否定派から『棺桶』と揶揄された大型の装置が必要不可欠だった時代とは、最早隔世の感すらある。
古来より、『暮らしを楽にする』ための技術が進歩する速度というものは、他と比べて特に目覚ましい。
「転移開始!」
【プレイヤー:如月裕翔 キャラクター:ユート ユニヴェールへようこそ】
入学当初は戸惑いのあったVR生活課題もスタートから一年あまりが過ぎ、仮想現実世界への没入手順に遅滞はない。
空中に表示されるホロウィンドウからよそ見をしていても、『Log In』のボタンに触れることができるほど。
ーー故に、裕翔もクラスメイトたちも、その時だけ普段と別のメッセージが表示されていたことを見逃していた。
【ユニヴェールに移動します。 思い残すことはありませんか?】
異世界ユニヴェールでは、五大国それぞれの首都では勿論、魔物の出るフィールド上や、人の手が及んでいないような洞窟内であっても、時を知らせる鐘の音が聞こえる仕様になっている。
これは、VR生活課題に取り組んでいる生徒のための都合で鳴るもので、それぞれ、九時に鳴るものを『始業時刻』・正午の鐘を『お昼休憩』・十七時のものを『予鈴』・最後の二十一時に鳴る鐘を『最終下校時刻』のチャイムなどと生徒たちは呼んでいた。
あの学校でお馴染みの音色ではないのだが。
さて、彼らのユニヴェール世界での毎日の活動は、現地時間で七時から二十一時までである。
二時間しか現実世界では流れていないのだから、七倍に時間が引き延ばされているのだ。
紫陽花学園の卒業生が、他校生より高い能力を発揮できているのは、その恩恵を受けたためなのかもしれない。
一部とは言え、学生として学べる時間が引き延ばされているのだから。
『短時間でより多くの知識を得られる』ことがVR技術を利用した教育の最大の利点であり、『肉体よりも、精神がより長い時間を過ごすことによる人体への影響』が大きな懸念点と言われている。
詰まるところ、如月裕翔の分身たる小妖精『ユート』たちのユニヴェールでの生活は、朝七時に彼らが所属国から提供されたアパートメントの一室ーー生徒らは『学生寮』と呼ぶーーで目覚めることで開始。
十七時の『予鈴』以降で二十一時の『最終下校時刻』までの任意のタイミングでログアウトすることで終わる。
その間、VR生活課題の学習要綱に従い、各々が設定した目標に向けて自由に生活しているのである。
ーー勿論、学生のほぼ全員が、VR生活課題の授業を『合法的にゲームで遊べる時間』としか認識していないが。
フィールドでログアウトした彼らの分身がその後いかにして自室に戻るのか、翌朝までは異世界の住民はどう過ごしているのか、などという疑問も持たないようだ。
(Mac/Safari)
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12 :りゅう
05/17(日) 03:57
(6の続き)
リン、ゴーン。
リン、ゴーン。
『お昼休憩』の鐘の音が鳴り響いた。
仮称・未知の怪魚対策として、釣竿や餌、戦闘になったときのための武器や回復薬などの準備に午前を費やしたユートが慌ててジュピテール王都ジュピター東門前に駆けつけた時、そこにはすでに五人のクラスメイトの姿があった。
「悪い! 遅くなった!」
「よーユート、わざわざ悪いな。」
「全然構わないわよ、ユートさん。」
「ユート! お疲れサマ!」
スマン、とばかりに両手を合わせて謝意を示したユートに、すでに到着していた者たちは、皆問題ない、と気安い返事で答える。
新発見された湖ツアーのメンバーは、小妖精族のユートの他には……。
ーー体力自慢の虎獣人族のジューシロー・ローブを羽織った人族のササミ。リア獣の重四郎と佐々美波のカップル。
ーー兎獣人族のダリア。帰国子女の鴨志田莉愛。
ーー凸凹カップルと呼ばれている、メガネ優等生の倉本駿二と天然系ギャルの浦野れもん。モノクルが特徴的な人族のシュンと肌の露出が多い犬獣人族のレモン。
総勢六名のパーティーだ。
「みんな、準備はいいか?」
即席パーティーのリーダーとなったジューシローがメンバーに問いかけると、
「オッケー!」
「準備出来てるよ。」
などと、三々五々返事が返ってくる。
「よし、じゃあ、ササミ頼む。」
「うん、ゲート開くね! 《月魔法・次元の扉》」
ササミが先端に宝石のついた杖を振りながらスキルワードを唱えると、人ひとりが潜れる程の大きさの鏡がついた姿見が現れた。
しばらくソロで活動していたユートには初見のスキルだ。
「この鏡に突っ込めば、リトス平原にワープできるのかい? 便利なスキルだね。」
「月魔法スキルがランク7になって覚えられた魔法のようだよ。」
ユートの言葉に答えたのは、モノクルをつけて学者風の装いをしたシュンだ。
「月魔法は、直接攻撃できる魔法がないから、上げるのは根気がいるね。」
「でも、ササミちゃんの魔法があると、モンスターの攻撃当たりにくいからラクチンだよ!」
「レモンちゃん、回避とか防御とかほとんど考えないで突っ込んでいっちゃうから、いつも見ててヒヤヒヤするよ。」
聞けば、カップル二組は、よくパーティーを組んで活動しているらしい。
「レモン、猪突猛進タイプか。しかも、そんな防御力の低そうな装備で……。」
健康的に焼けた褐色の肌が、最低限度の急所以外露出したレモンの装備を眺めながらユートが呆れたように言うと、
「あ、ユートのレモンを見る目がエッチデス!」
目敏く見つけたダリアが茶化してくるのだった。
(Mac/Safari)
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13 :りゅう
05/18(月) 20:38
7.現実世界は別腹なのデス!
リトス平原には、野獣型の魔物が数多く出現する。
その中で最も危険とされているのは、まだら模様の体毛をしているレオポンだ。
動きが俊敏な上、鋭い牙や爪の打撃力も油断ならない。
しかも、単独ではあまり遭遇せず、群れを成して狩りをする習性があるのが厄介だ。
「ダリアとシュンは一匹ずつ頼む! ユート、俺の前の奴を一匹ずつやってくれ! レモンは前に出過ぎるなよ!」
群れには群れで。
「オッケー! 《投擲・手裏剣》……もう一丁! 《投擲・手裏剣》」
徒党を組むのは、レオポンだけではない。
戦う力を持つ者たちが適切な対応を取れば、魔物たちは、狩る側から狩られる側になる。
「グギャァァッ⁉︎」
「ギャウゥゥッ⁉︎」
ユートが放った手裏剣が、二匹のレオポンの眉間を正確に貫く。
それらは、断末魔の声を上げた後、ビクリと痙攣すると、塵となって消えた。
「急所を一撃かぁ。ユートさんと一緒にパーティー組むの初めてだけど、本当に強いね。」
魔物を処理した一行は、再び湖へ向けて歩き出した。
厄介なレオポンの群れにも苦戦しないことで気が緩んでいるのか、ピクニックのような雰囲気だ。
ダリアなんかは、スキップまでしている
。
「ユートは、バシュッ! シュバッ! ってなってすぐ終わりマス!」
「ダリアちゃんも、ズバッ! ザクザクッ! ってスゴかったよ!」
陽気な女子二人は、全身でジェスチャーまでしてハイテンションだ。
「キミたち二人の会話は非論理的だな。僕にもわかるように言ってくれ。」
「おやおやぁ? ムッツリメガネさんは、アタシとダリアちゃんの仲に嫉妬してるのかなぁ?」
シュンが肩をすくめて言うと、レモンが茶化しながら彼の腕に甘えるように抱きつく。
「今日は、ユートさんとレモンさんもいるから賑やかね。」
「ジューシローたち、いつも四人で組んでるんだね。」
「ああ、一度組んだら、レモンの危なっかしさに、ササミが放って置けないって言い出してな。」
「あー、あの時はー。レモンさんやられまくりだったね……。」
ササミが少し遠い目をして言う。
「そうなの! ササミちゃんたら、スゴいの!」
恋人とイチャついていたレモンが、突然ユートたちが話しているところへ飛んできて、ササミに後ろから抱きつく。
「アタシを吹っ飛ばしたモンスターを杖であしらいながら、回復魔法かけてくれたり……あとはー、ササミちゃん、ココもスゴいの! ウリウリ〜!」
「ちょっ、だめ。レモンさ……んあっ!」
「ユニヴェールまで来て、何やってんだよ……。」
目の前で行われている過剰なスキンシップから、ユートは目を逸らしたが、そこに回り込んだ者がいた。
「ユート、羨ましそうデスネ! ……ユートなら、してくれてもいいデスヨ?」
「……またにさせてくれ。」
羨ましくない、しない、とは言えない、ある意味正直なユートであった。
(Mac/Safari)
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14 :りゅう
05/18(月) 20:39
(7の続き)
その湖は、意外なことに、リトス平原のちょうど中央に堂々と存在した。
「まさかこんなど真ん中にあるものを見落としていたなんて……。」
湖に釣り糸を垂らしながら、ユートが呟く。
「盲点だったようだね。外周を一周探索したから、全部見た気になってしまったんだろう?」
隣で同じように釣りをしながら、シュンが言う。
「思い込みって、ヤバいな……。ところで、かれこれ何時間か釣ってるけど、噂のヌシは全然かからないな?」
「そうだな。餌なんかも昨日と同じものを使ってるんだが、何か出現条件でもあるのかもしれん。」
「ま、普通の魚は順調に釣れてるし、たまにはほのぼのライフもいいかも。」
「……目的を忘れてあそこまで気を抜いてるのもどうかと思うけどな。」
ーー水切り十回できマシタ!
ーーダリアちゃんスゴーい!
ーーササミ、薪はこのくらいでいいか?
ーーうん、ありがとう、ジューシローさん。レモンさんとダリアさんも、お肉を串に刺すの手伝ってくれる?
仮名・未知の怪魚のことは完全に頭から消え失せたのか、どう見てもバーベキューの準備をしている仲間たちの姿を見ながら、シュンは呆れて言った。
それから、日が落ち薄闇が辺りを覆い始めるようになるまで粘ったても、未知の怪魚はヒットすることはなかった。
ユートたちは、この日は結局、湖畔でバーベキューを楽しむだけになったのである。
「いやー、食った。食った。」
「これだけお腹いっぱい食べても太らないなんて、ユニヴェールは最高だよね! アタシ、紫陽花学園に入ってホントに良かった!」
「逆に、VRでこれだけ食べても、お家に帰るとちゃんとご飯食べられるから不思議よね。」
「今は何ももう腹に入る気はしないけどな。」
「ユート! 駅前の屋台でクレープ食べて帰りマショウ!」
「ダリア、この流れで、今それを言う?」
「モチロン! 現実世界は別腹なのデス!」
ダメだコイツ、とばかりに肩をすくめる男性陣。
その裏腹、いいわねー、アタシバニラストロベリーにするー、などとノリノリの女性陣。
女子高生は、例外なく全員スイーツ女子だ。
男子の意見は聞かれることもなく、放課後クレープ計画がまとまってしまった。
「そうと決まれば、ログアウトして帰りましょう。今何時頃かしら?」
「おしゃべりしてたら、『予鈴』気がつかなかったね!」
「ま、もう夜だし、十七時は過ぎてんだろ。」
メラメラと揺れる焚き火の温かな光が眩しく感じる程、辺りは真っ暗だ。
「じゃ、ログアーウト! ……ってアレ? ねぇ、みんな、まだログアウトできないみたいだよ?」
【ログアウト不可能です。VR生活課題を続行して下さい。】
レモンと同様に、試してみてもログアウトできなかったのか、シュンが首を傾げた。
「僕も気づかなかったけども、いつも日が落ちる頃に予鈴鳴っていたよね?」
「そう言えば、俺も予鈴聞いた覚えがない。」
「私も。」
「ワタシもデス!」
どうやら、ここにいる全員が、十七時の鐘の音を聞いていないようだ。
「じゃあ、もう真っ暗だけど、実はまだ十七時前ってことなのかな?」
「そうなんじゃねえか? 夜のモンスターはメンドイし、とりあえず街に帰ろうぜ。」
「そうだね!ササミちゃんお願い!」
「わかったわ。《月魔法・次元の扉》」
ぽわん。と音を出しながら、魔法の姿見が出現する。
瞬間、早速犬獣人がそれに飛び込んでいった。
「アタシいっちばーん!」
「あ、てめ⁉︎ レモン、ずりぃぞ!」
「ワタシ二番デス!」
「ジューシロー、お先。」
「なっ、お前ら⁉︎」
ーーはしゃいでいられたのは、この時までだった。
ジュピターの街に帰還したユートたちは、有り得ないものを見て呆然と立ち尽くすことになるのである。
街の中央に位置する、双子の尖塔を持つ教会。
その建物に設えられた時計が。
ーー二十二時を指していたのだ。
(Mac/Safari)
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