今日の騎士様は機嫌が良いみたい。でも僕の気分は最悪。痛いなんて言わなければ良かった。でも痛い。どうでもいい。
騎士様はキラキラしたものが好き。花も、水も、空も、キラキラ輝いて美しいのが好きなんだって。騎士様らしいね。草木の色も水面の色も、花の色も、何一つ僕の目には映らないし、そこにあるのは何時だって灰色のモザイクだけだけれど。騎士様が好きって言った絵の額縁の形だけは覚えていてあげる。
ああ、そう言えば。僕の好きなものの話、してなかったね。僕はね、不安と混沌と恐怖と虚無、絶望を混ぜ込んでぐちゃぐちゃにぶち撒けた真っ青で真っ赤なやつが好き。

きみ、要らないものを捨てる時は本当にぽいっと簡単に、何でもないもののように捨ててしまうから。軽くて薄くてペラペラで、何も持たない僕のままが丁度良い。死ぬ時は軽くしておかないと落としたものを探すのは大変だから。今更どうだって良いし興味無い。だけど騎士様の事は好き。どうしてだろうね？

騎士様はかわいい。僕もかわいい。
甘いものは可愛くて、可愛いものは美味しい。だから騎士様も甘くて美味しい。ふわふわのパンケーキや甘いチュロスといっしょ、食べると騎士様の体積は減るけどその分騎士様が僕のものになる。思いっきり歯を立てて噛み付いたら痛がって泣いてしまうかな。そういうところも可愛そうで好き。

毎日毎日一緒にいて、おはようもおやすみもずっと一緒で、心臓も熱も全部ドロドロに溶けて境目が無くなってしまったのに何時まで経っても同じにはならない。右と左が違うように騎士様は騎士様で僕は僕。似てはいても同じじゃない。それってとっても、幸せな事だね？騎士様はそれを寂しいと思う？なら嬉しい。嘆く騎士様はきっと可愛いね。

そろそろ眠い。おやすみ。

お祝いをした。

僕がもう要らないと言ったらきっとこの世の終わりみたいに傷付いた顔をして鬱ぎ込むんだろうね、可愛そうな騎士様。そんな一瞬で終わっちゃう快楽の為に手離してなんかやらない。今日も明日も明後日もずっと、僕の為の騎士様でいて。頑張っても良いよ、強くなっても良い。沢山褒めてあげるから。不貞腐れた顔も拗ねた顔も面白くてすき。怒った顔も好き。ねぇ、過ぎた一年を振り返るとき、きみは自分を恥じるのかな。それとも、悲しい思い出に顔を曇らせるの？どっちなんだろうね。どちらもかな。僕はね、そんな騎士様もだいすき。

今日はみんな機嫌が悪いみたい。雨が降ってじめじめ陰気な空に覆われただけで駄目になってしまうなんて、可笑しい。お前のせいだってもっとはっきり言って、怒りを露わにして傷付けてしまえば良いのに。全部僕のせいにして全てを吐き出してしまえば良いのにね。誰も彼も悲しそうな顔。潰れたスノキの実みたいに外も中もぐちゃぐちゃ。救う方法なんて僕は知らない、助ける気もないよ。だけどぐちゃぐちゃなきみのことは大好きだから、何時も一番近くで見ていてあげる。