ああ、変な名前だろ。馬鹿みたいな話だぜ。聞く？
本当はな、アキヒトだったんだ。漢字だと顕仁。字が難しいから片仮名にしよーぜって、親父が勝手に出生届出しちまったの。間違った読みでな。そんなわけで大層な由来はない。しいて言うなら顕仁は昔の天皇──…王様で、俺は多分、そいつとは気が合わない。

俺にとって死は友人だった。狼に腕を喰われる。暴かれた末に処理される。力及ばねば奪われるのは当然の摂理で、ただ、それだけのことだった。

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男らしく骨ばった指が存外器用な動きで俺の横髪を編んでいく。やがて編みあがった毛の先には、つやりと輝く小さな髪飾りが添えられた。

白蝶貝の髪留めだ。葦のかたちに精妙に削り出されたそれは、なぞると滑らかな感触がした。光を受けた純白がとりどりの色彩を放っている。角度を変えるたびオーロラが揺らぎ、幾通りもの趣を呈して、目に鮮やかに飛び込んだ。

もしあのとき、後生大事に身につけると心のまま伝えられたら。逃がれるよう向けられた背を抱き締めることができたなら。どれだけ、良かっただろう。

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剣を持つ手が少し震える。
持ち物はやはり最低限に絞るべきだ。味気ない、自室のように。

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アンタの部屋。装い。無駄なもんがなくてシンプルなのは、単に趣味だと思ってた。それから、一緒に旅して分かった。アンタは、アンタのいる場所から、いつ自分が消えてもいいようにしてる。
王子様、とりわけ世継ぎともなればふつう、もっと命を大事にするもんなんじゃねぇのか。

(だから、飾しばってやることにした。そう簡単にいなくなれないように。)


唯一無二へ。
以下、私信と呟きで使い切るから感想等は不要だよ。
#私信は次の項な。↑は感想じゃない。俺の呟き。
>お前はまた忙しいのにそういうことをする。困った奴だ。
#♪
#俺の生活のメインはアンタだ。
>奇遇だな、俺もだ。溺れている。

ヨルクちゃんが風邪引いたって聞いた。
正直なところ気が気じゃない。

あいつは本当に。自分がつらいときに、俺が寂しがるかも、なあんて考えなくていーんだよ。
なにしろ懸念が勝ちすぎて、寂しい、なんて驚くほどに感じやしない。

仕事もいまひとつ手につかねぇ。
いつだったか、『妻が寝込んだ』って青い顔で出勤してきたかと思えば、散々トチりまくった末、昼過ぎに早退した同僚がいた。そいつの気持ちも、今なら。察するに難くない気がする。


──考えてみれば俺は。あいつがしんどい時、そっとしといてほしいタイプなのか、心細くなるタイプなのかさえ知りやしない。

上辺だけで生きてきたせいだな。大事な相手にどうしてやるのが最善なのかもわからねぇんだ。

あいつが楽なかたちで、傍にいてぇのになあ。


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あいつのくれた短縮魔法、使ってみた。さすがだ。
#はは、早速使ってくれたのか。嬉しいよ。
♡

短いメッセージでもハートでも寄越せと、できる限り早く返すと。朝、そう言って貰ってどれだけ心強かったことか。
そのうえこんなことされたら…泣けるだろ、勘弁してくれ。

なあ、アラヒト。お前の存在にいつも救われているんだ。側にいてくれて、ありがとな。

今日は白蝶貝のことを記録するつもりでいたが、寝込むばかりで一日浪費してしまった。悔しいけれど後日だ。

少しは楽になったか？
多分、昨日からけっこう体調悪かったんだろ。
アンタのことだ。覗きに来てくれるだろうから、そのときの気分転換になればと内心をひと言置いといた次第だが、逆に気ィ遣わせちまったな。浅慮だった。

気が紛れるなら返信も嬉しいけど、朝伝えたとおりだ。アンタが楽なようにしてくれんのが、俺はいちばん嬉しいんだぜ。

思惑通りとても癒やされたよ。有り難さと嬉しさのあまり返事してしまった、許せ。
恋慕う相手とは、切っ掛けを見つけていくらでも言葉を交わしたくなるものだ。

だいぶ良くなったし、満たされた。
お前が労ってくれたからだ。

はは。そりゃ違いねぇな。俺だって、いつも話しかける口実を探してる。アンタには「普通に話しかけろ」なんて言うくせにな。

そっか。マシになったなら、ちょっと安心したよ。明日はまともな仕事ができそうだ。

いつでも声をかけて欲しい。慣れないと言っていたが、慣れたら是非に。その方が嬉しい。

心配かけたな。本当にすぐに応えてくれるものだから邪魔しては悪いと思いつつも、ついたくさん連絡してしまった。

……ん。わかったよ。