一枚、白紙を挟んどきましょうね

# 閲注

また……、……、へえ……やっと、やっと乗り越えられた過去をまたほじくり出そうとするのかい。
アタシが大嫌いで大好きで苦しかったあの日をさァ！！もう思い出したくもないんだ！七十二時間生き地獄みたいな他人の暮らしを覗き見するような罪悪感で消費しまくった過去なんかさ！もう無かったことにしたい。アンタにとってこの泣き言がなんにも、ほんの少しも心に響かないとしても、私はアンタの一つ一つに過敏だってことに気付いてよ。
それが傷付いてるのか、喜んでるのか、簡単に想像できるでしょ。…って、そんなこと言ったら「君こそ」って言い返すわけ？そうだろ？この男癪に障るわぁ。想像力が欠如してるのはお互い様じゃない。ねえ、ねえ？
アンタのその用意周到なところ、本当に最悪だから。悪趣味の骨頂って感じ。何処までも追い込んで何も言い返せないようにするところまでがアンタの手口。

人間の記憶はほとんどないのに鬼になってからの記憶は…忌々しい出来事が狭間で揉み合って壊れていくように、ずっと残るの。苦しくて、熱くて、気が触れそうになるのよ。それをアンタに一切気取らせなかったアタシは偉い。

# 極楽教コソコソ噺

明けない夜は貴方さまの小噺を聴きながら微睡む、これ以上とない幸福です。
時に思うのです…こんな甘い蜜を吸い続けたら、罰が当たるんじゃないかって。

お部屋の香りに包まれると睡たくなって…うとうとして…それでも貴方さまは私の不安を拭うようにずっと話し掛けて、笑わそうとしてくれるわ。ああ…嬉しいな。すっとぼけた返事しかできない時も、にこにこしている童磨さまがとても…

──たまに悪夢をみるけれど、忌々しい過去がよみがえるけれど、私は幸せですよ。
貴方さまの鋭利な手が、冷ややかな目と声も、今は私を愛してくださってると言うのなら……それだけで貴くて、贅沢にも程がある夢だと思いますから。
貴方さまの示す神のもとへ行く覚悟は出来ておりますゆえ。

# よるさんぽ

ふんふんふーん…アイツの好きな色って何かしら。そういえば聞いたことがなかったわね。知ってたら着物も見繕ったし、瞼に色を乗せて御粧しができたんだけれど。……いつもより少しだけ目弾きを濃くしておこう。

恋愛ものは好きよ。男女でそれを観に行くのってあれでしょ…ほら、つまり……。あの色男、気が利くじゃない。

自由恋愛に夢みるなんていかにも女の子っぽくて女の子らしくて女の子だからアンタはもっと私に気を向けるべきよ。早くしないと……誰かに買われて誰かと駆け落ちしても知らない。その時は、生涯ずっとアンタとの初恋が忘れられない何処かの夫人になってやる。



＞「わわわ蕨姫花魁っ、今夜は奉行のお客がいらっしゃるんじゃあ…」

お前、適当に言って帰してやって頂戴よ。

＞「えっ！？わっちですか？わっちが！？」

つべこべ言うんじゃない！早うしな！

# 極楽教コソコソ噺

貴方さまの居る夜はとても静かで穏やか。毎夜おひざもとで睡れる幸せ、噛み締めるどころか吸い付くように味わっているのです。甘い蜜を吸うように。貴方さまの鋭い青紫の爪、獣のような牙、時折におう異質な香り。
私には全部視えない（盲）んです。さあ、お唄を歌ってあげましょうね。幸せだねぇ…この時間ずっと続いて欲しいねぇ。


　 ゆびきりげんまん　お守りしましょう　
　　　約束しましょう　あなたをずっと、