top
眼鏡、汁だくで。
 ┗143

143 :仁王雅治
2007/10/26 23:59

10月19日

柳、ジャッカル、赤也と丸井、真田と幸村、
マネージャーさんにん、
クラスからひとり、ふたつ向こうのクラスからひとり、
机の中と下駄箱にひとつずつ。
まだ気付いていないテニスバッグの中にひとつ。
俺が預かったやつ、ふたつ。計10個。

イギリスやめてイタリア系目指せばと言ったらこれはこれで良いのですと答えた。プレゼント貰うたび意外そうにいちいち驚いた顔してご丁寧に礼返しよって、…本当に予想も期待もしていない奴だから詰まらん。
柳生には隠れて好意を寄せている女子の方が圧倒的に多い。


放課後いつものメニューに金曜のゲーム。今日はシングルスばかりで柳生とは相手をすることも組むこともなかった。なんとなく休憩時間も壁打ちで時間を潰した。
普段よりも早く上がったのは幸村も真田も柳も、知っているからだ。


一年半よりもっと前、
初めて放課後ふたりで出掛けた時に入った甘味処は、まるでそういう知識のない俺にお前が教えた和菓子の喫茶店みたいなところ。柳生は気に入りのところてんと、俺はわらび餅と団子の皿に二人でひとつずつ冷たい抹茶を頼んだ。
運ばれてきた菓子に素直に感嘆詞を付けるとおいしそうですね、と柳生は俺のほうを見て言った。ならこっちも食うてみるかと串で口の前に突き出してやったのはその時は単なる気紛れのようなものだったが、柳生は目と喉だけでたじろいだ。躊躇ったあとそのまま口に含む様子をただ見た。今でも頼まれてもないのに嫌がらせのように唐突に口もとまで運んでやるのは、その一瞬ほんの少し慌てるのを見たいからだ。誰も気付かないような動揺を見るのが楽しい。
その後暫く迷って「仁王君も食べますか」と自分の皿を指したのがおかしくて堪らなかった。食わして、とポーズして、渋い顔をするかと思えば結構あからさまに恥ずかしがりながら適応力を見せてきた。

別に何も言わんかったがちょっと違和感があるような気がしてた、男二人で菓子屋やカフェに入るのにも考えんようになった。

ひどい余談だが俺の見る五階メンズファッションの向かいの百貨店同じ五階、『紳士服・紳士洋品雑貨・スポーツとめがね』のフロア(ハイわかる奴挙手)はいつ見ても、あ、柳生。と思う。(そしていつもこいつはここで満足げにネクタイとゴルフウェアを見る。いい加減テニスに絞りんしゃい)


氷の入った抹茶のグラスを少し持ち上げて差し出した。お前が、同じグラスでチリンと合わせる。
こっち向くな。俺を見んでいい。目線なんか合わしてやらん。期待、を、向けるな。
たっぷり五秒。グリーンティが唇に触れる直前に水面を滑る波紋、…「おめでと」。
緑の水を口へ含みながらグラス越しに見る幸せそうな顔。
嬉しさと罪悪感が半々。
ああそうだ、と鞄から出して小包を渡したそれが女子からの預かり物だと教えた一連を観察していればそれだけで確信が持てる。
解ってる。
誰からの誕生日祝いも欲せず待たずにいとったお前が、唯一今日欲しいと願うもんが、その相手が。
解ってるが、お前さんはいい加減不毛なそれを諦めるべきじゃよ。
俺は誕生日プレゼントなんか手渡してやる気はさらさらないんじゃ。それにそんなもんは持ってきとらん。

いつもとかわらんテニスの話ばっかりしとった。クラスのこと。テレビのこと。音楽のこと。
レジ前で財布を出す手を制して「まとめて。」
柳生は背後でつまらなそうな顔をした。

(俺がいなきゃお前はさっさと家に帰って、夕食の準備の整った家で、家族と一緒にテレビでも見ながら居間で笑うんだろ?
帰れよ。ほら、改札まで送るから。)

作った笑いをお互いに送る。言いたいことはわかってる。
それでも別れて、俺たちは電車に乗った。



ああ、もう。

…帰った頃に差出人不明の荷物が届いてるよ。
お前さんなら見ればすぐ気付くじゃろ。

悪いが今日から3日携帯の電源オフ
月曜の朝練はサボリ。
朝礼ギリギリに教室に入って後ろの席から焦ってもらう。

お前さんがどんな顔して声かけてくるか楽しみだ、







なんて…あーあ。


こういう時が一番、
…照れ臭くて、こまる。


ピヨ。

[返信][削除][編集]



[Home][設定][Admin]

[PR]♪テニミュ特集♪(携帯リンク)

WHOCARES.JP