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だいたい調理部日誌!
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雨の日につい右隣を見る癖がついた。 ふと差している傘の中に上着を羽織る彼女が、俯きがちなあの横顔が見えるような気がして、未練がましく何度も何度も俺は隣を盗み見る。 幻でさえ何かに憚られるような気がして直接見れやしない俺が、どうして話しかけたりできるだろう。 彼女ともう一度話せたらいいのに。 控えめに話すのは初対面だったからだろうな。 金糸の睫毛に飾られた瞳はきらきら、光が瞬いて。 寒さに震える肩を抱くことが出来たら良かったのに、ハンカチを渡すのが精一杯だった。 彼女がもう決して濡れないように傘を傾けるのは、俺だけに許されたとても重大な役目のように思われて、誇らしくて、恍惚とさえしていた。 なんで同じクラスじゃないんだ。畜生。 知ってる、またあいつが隣にいた。随分と仲が良いらしいじゃないか。 俺だってずっと、幾つも、彼女に訊いてみたいことがあるんだ。 薔薇は好きだろうか。百合の方が似合うかもしれない。 紫陽花、桔梗、アベリアや木槿、露草や芙蓉に椿に蓮華にガーベラとデイジーやマーガレット、かすみ草や蘭や花水木かジャスミン、石楠花に牡丹、藤や桜や梅の花。 どんな花が好きなんだろうか、何色が好きだろう。 想像する。 彼女が少し屈むんだ。 少女らしい華奢なラインを持つ両足が屈んで、膝にはあの可愛らしい掌を乗せている。 菫色の瞳、視線が絡むのは薔薇の花。細い指が花を柔らかく囲う。ふっくらとした下唇が緩く反った花弁に触れて、微笑む。 花のかんばせ、綻ぶ様を見てみたい。 そんな妄想ばかりが浮かんでは消え、実際は雨にけぶる通学路しか見えないまま信号を待つ。 声が聞きたい。 話したい。 彼女に会いたい。 なあ俺のこと、覚えてるか? 覚えてなくったっていいんだ。構わない。なんでもいい。 今度は君の瞳に映ることができるなら。 また君の隣で傘を持って歩くことができるのなら。 梅雨空が絶え間なく降らせる絹糸のような細い雨の中を、俺は今日も独りきりで歩いていく。
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