〆　別の世界の話

朝起きたら同じマンションに住んでいたはずの君は何処にもいなくて、昨日まで置いてあったはずの君の私物は一つも見当たらない。まるで初めから居なかったみたいに消えていて、大学に行っても誰も彼のことは覚えていないという始末。残ってるのは僕の記憶だけで、携帯を開いても、他愛も無い会話のやり取りなんて何一つ残っていなくて、連絡先も消えている。ふざけて語呂合わせで暗記した番号に掛けてみても、現在使われていないの一点張りで、どうしたらいいのかわからなくなる。僕は頭がおかしくなったのか、初めからアイツはいなかったのかとぐるぐる考えて一日を終える。
明日になればきっと元の世界に戻っているだろうと、君との綺麗な思い出ばかりを何故か思い返しながら寝て、次の日がきて、殺風景な部屋にまた絶望する。
もう何年経つんだろう。
僕はいつの間にか、随分別の未来を歩いていることに気がついた。君との思い出はすっかり色褪せていて朧気で、隣にいるのはもちろん君じゃない。それでも僕は奇妙なことにとても幸せだよ。