日記一覧
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267.勝手にアイス食うな。
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月島蛍
2020/03/08 03:49
〆 半年前の話
二ヶ月、日向と会えないことがあった。
それはもう、どうしようもないことで。でも納得は出来なくて、遠く離れてしまった君が恋しくて仕方が無かった。一週間に一度、ポストに届くハガキだけでは物足りなくて、けれど遠い所で頑張る君の邪魔だけは絶対にしたくなくて。
最初の予定は一ヶ月だったのに、一ヶ月経つ頃また一ヶ月会えない期間は延びた。その知らせを本当に申し訳無さそうに、そしてぐったりとした声で言うものだから、嫌味の一つすら出てこなかった。代わりに口から出たのは「身体には気をつけてね」という何とも物分かりの良い有りがちな労いの一言だけだった。
休日、山口とお茶する機会があって、日向のことを少し話した。すると山口は頑張る日向を褒めた後、僕を励ました。
「ツッキーえらいね。俺だったらそんなに良い子は出来ないや」
「良い子って、なにそれ。貶されてるの僕」
「違う違う。俺だったら『仕事とわたし、どっちが大事なの』ってやつポロっと言っちゃいそうだからさ」
そんなこと思わない、とは言えなかった。現に約束していたデートはなくなって、次の予定すら無い。言い出すのもなんだか日向に申し訳ない気がして、僕からは何も言えなかった。
「でもたまには日向のペース崩してやったら?」
「崩すって…邪魔をする気はないんだケド」
「良い意味で。サプライズってやつ」
そう言って山口と話し合った僕は、その日の夜日向に手紙を送った。話したいことがあるからオフの日を教えてという内容で。それからしばらくして日向から返ってきた返事を読んで、僕はスケジュールを調整した。
「もしもし、久しぶり」
『月島…うん、久しぶり。なぁ話したいことって』
「その前に、今日君は家なんだよね?」
『そうだけど、なんで?』
「じゃあ迎えに来てくれる?今君のとこの駅にいるから」
そう言ったら日向が何度もえ?え?と尋ね返してきた。電話越しに何か落としたような騒がしい音が聞こえて僕は見知らぬ駅で一人笑った。
しばらくして迎えに来た日向はそれはもう酷い顔で、起きたばかりのような寝癖をつけたまま息を切らしてやって来た。
「なんでいるの!?」という大変失礼な言葉に、「会いたかったからじゃダメなの」とここまで来るのに4時間かけた僕はすっかり開き直っていた。
後で聞いたら別れ話されるのかと思って焦っていたという日向。そんなことで別れるつもりは毛頭無かったけれど、不安そうな日向がとにかく珍しくて思わずぎゅっと抱き締めた。
「驚いた?」って言ったら、くしゃっと笑って「驚いた」って返してくれた君が誰よりも好きで、どんなものよりも愛しいって思った。会いに行きたくても行けないなんて思っていた数日前の自分が本当に馬鹿らしく思えた。
でも、「来てくれてありがとな」と不意打ちでキスを仕掛けてくる君に、いつも僕は負けた気分になる。
こちらこそ、ありがとう。大好きだよ。
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