この手記があの人に読まれる事は全く、想定しなかった。
本棚の奥に隠していたし、見付かるなんて事になる前に燃やす事になるだろうと思っていたからだ。
それはオレには、望みはないと半分諦めていたから、というのもある。
そう思った理由をあげるとするなら隙の無さ、かもしれねぇな。一本の髪の毛すら見逃さない様な人だった。
だから、毎日びくびくしながらあの人に触れていた。ここ迄なら、この辺り迄なら、…そういや、調子に乗り過ぎて痕を残そうとして首根っこを捕まえられて、潰されたな。
ああやべぇ、今だから笑える話だ。今のあの人がこれを思い出したらどう思うだろう。
今は、あの時からは考えられない位にオレの好きにさせてくれてるってのに。噛まれて、爪を立てられて、傷口を抉られて、それなのに許されてる今に背筋が震える。
こうして、手記を書き続ける事が出来ているのは間違いなくあの人のお陰だ。