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東方逃現郷
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14 :
ライゼス(創作♀)
2016/09/30(金) 14:14
「わ…私は大人しそうに見える子を助けたと思ったら いつの間にか正座で叱られていた
何を言ってるのか分からないと思うけど ヘタレだとかギャップだとか
そんなチャチなもんじゃ断じてない 本当の恐怖の鱗片っていうのを味わったわ…」
未だ痺れの余韻が残っているようで、汗をだくだくに垂らした真面目な苦悶の表情(真面目なのは顔だけ)を浮かべて後を付いてくるライゼスを、二人は尻目に気に掛けていた。
「なんだか心配だねぇ…」
「そうね、心配。私と同じように現実世界から、貴方の言う此処…幻想郷に流れ着いてきた、
その経緯や事情はお互い様なんだけど、無性に心配にさせられちゃうものだから。
…私も人の事言えないかも知れないけど」
「いやー、貴方に限ってはそんな事はないから。でもこの差は一体何なんだろうねぇ」
とりあえず、翼の生えた少女の案内によって獣道から一応整備された山道へと出て、道すがらを歩きながら、簡単な情報を教えて貰った。
この世界は『幻想郷』……既に住人にとっては、現世とは別の場所であると認知されている世界。そして、其処で生きる者においてもはや常識である、様々な事。
この世界には、妖怪が出る。さっきアイリスとライゼスの二人に逆上して襲い掛かった、あの摩訶不思議な術で体躯に見合わぬ殺傷力を得ていた小動物。
あれは彼女が言うには『鎌鼬(カマイタチ)』というものらしく…おおよそ現実世界でモチーフになっているイメージとそっくり。
ああ言われてみればなるほどな、と後から合点が行った。
……しかし問題は、ああした妖怪が幻想郷のそこら中に、大小様々魑魅魍魎としてうようよひしめき、人間を襲っているのだとか。
現実世界から駆逐され、とうに幻の存在…今風に言えばUMAと言ったものだろうか?
その認定を受ける事を条件として、この幻想郷に同じように流れ着き、妖怪の世を形成しているらしい。
……アイリスとライゼスも、同じようにUMA認定…分かりやすく言うと「現実世界から忘れられた」か、それとも外的要因か、
ともかく正真正銘の異邦人の立場に置かれている事を理解すると、沈痛な面持ちで口を閉ざした。
一方で、人間はどうしているかというと、太古の昔に原生生物にも蹂躙されていたように、
妖怪から身を守るために集落を作り、身を寄せ合うように暮らしているようだ。
今では想像だにしないほど情けなく、生々しくシビアな日常。
そこで暮らす集落の事を、『人里』と言った。
それだけに留まらず、同じように知能を持ち、集落を持ち、有力な妖怪が集う拠点には、
妖怪だけでなくこの少女の自称する『悪魔』と同等…もしくはまったく異なる上位存在や、
幻想郷や現世だけでなくさらに別の世界の異次元的な存在まで居るという。
本当に存在感もさる事ながら、話のスケールさえ違いすぎる。
最後に、三人は簡単な自己紹介を済ませた。
外見のほんわかしていてまだ垢抜けない、それでいて分かりやすい様子以外は一切が謎のベールに包まれた自称悪魔っ娘は、『幻月』といった。
彼女は行方不明の妹を探していると言ったが、決して所在が分からない訳でも、蒸発した訳でもないらしい。
幻月自身が、自身の住居から幻想入りしたのと同じように幻想郷へ飛ばされ、迷子悪魔となったようだ。
赤毛で三つ編みの少女『アイリス』は、自身の抱える複雑な個人情報は語らなかったが、
「私には予知夢や、細かいもの、風の流れとかを見る力がある」と告白した。
どこか虚ろな雰囲気に反して、気が強いようだった。
カジュアルなアイリスの服装から見て、良くも悪くも現代風な簡素なシャツにミニスカートを合わせただけの、眼鏡を掛けた黒髪少女は『ライゼス』と言った。
しかし、他の事に関しては歯切れ悪く言い淀んだ。アイリスと同じように話したくない事情があるのかと二人は思ったが、詮索してみるとどうも違うようだ。
ライゼスは本当に自身の名前以外の全てのプロフィールを忘却しており、かつての自分を知る当てがまるで無いらしい。
覚えている事と言えば、当人の体験したはずの思い出が決して付随しない、辞書のように雑多な知識だけだと言う。
先の、鎌鼬の妖力を察した事といい、感受性がとても強いようだが、それだけに肌が敏感で神経質なようだった。
今のところ、流れ着くなり妖怪に襲われたり、ついさっき叱られたりといったショックもあって、
ライゼスは全く落ち着かずに一番不安そうにしている。
己を形成する芯が無いものだから、精神的な支えを失っているのと同じ状態で、仕方ないとも言えたが。
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