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東方逃現郷
 ┗25

25 :幻月(東方旧作)
2016/10/16(日) 17:05

「さて、と――。それじゃあわたしも、ちょっと里の中の見学でもさせてもらおうかな。昔とはだいぶ、様相も変わったみたいだし」

「そういえばわたしの事を知っていたりと、幻想郷がはじめて――というわけではなさそうだったな?」

特にアテがあるでもなさそうだったが、ぶらりと何処かへ歩き出すライゼス。
何やらショックを隠さぬままに、やはり里の中へと向かうアイリス。
そんな両者の背を見送った後、幻月もゆるりと立ち上がる。来訪者が全員立てば、その場にいる意味ももはやないだろう。
慧音もそれに倣って立ち上がり、軽く自分の知る時代のことを話しながら、寺子屋の玄関へと歩みを進める。
そうして一歩、寺子屋を出たその途端、である。

「けーねせんせぇ、お話し終わった?」

「あ、てんしさま」

「てんしさまだぁ」

「てんしさまー、てんしさまー」

「いや、ちょ、わたしは天使じゃなくて悪魔で――って痛い痛い、掴まないで引っ張らないで!?」

大好きな先生と――。里の中では珍しい、白い翼に興味を持ってやまなかったのだろう、子供たちに一斉に取り囲まれる。
子供は嫌いではないし、相手をすることに別に否はないのだがかなり精密に神経の通った翼を掴まれては堪らない。
だが、それ以上に天使扱いもなおさら堪ったものではない。とにかく誤解だけでも解こうと尽力するが、大はしゃぎの子供ほど話を聞かないものもない。

――やがて、理解してほしくてもされないので、そのうち幻月は誤解を解くのをやめた。

◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

「そ~れ、いくよ~!」

「わーい!」「きゃーきゃー!」

――五分後。
持ち前の、自称からかけ離れた穏やかな雰囲気と容姿もあってのことだろう。
すっかり子供たちに懐かれてしまった幻月は、結局自由時間を子どもたちとの遊びに当てる羽目になっていた。
希望されるのは軽い遊覧飛行。
力が弱っていようと、其処は伊達にあくまではなく、両腕に一人ずつ抱えて、ゆっくりと飛んで見せる程度の事は然程の苦もないことで。
下に慧音が控えていることもあり、幻月ものんびりとした時間を満喫していた、のだが。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

「な、何だ!? 寺子屋のすぐ傍じゃないか…!」

「うわぁ、妖怪だ! 妖怪が出たぞー!」

何組目かの子供たちを地上まで送り届け、さて、次を――と腕を広げようとしたところで、響く地響きと悲鳴、怒号。
妖怪、という言葉に身を固くする子どもたちを見やってから、慧音に視線を向ける。

「幻月、すまないが――」

「ん。流石に放置もできないしね。大丈夫、任せといて」

慧音の言わんとする事をすぐに悟り、幻月も軽く頷いて答える。
ひとまず、子供たちを寺子屋の中へと避難させる慧音に先んじて、自分は素早く騒ぎの起きた方へと足を運び――。
目の前に広がる光景に、思わず歯噛みする。

小一時間前にも見たような光景――、不定形の何かに襲われるライゼス。
……一体何が起きたのか、それはわからない。人里であんな妖怪が暴れるなどという話も聞いたことはない。
入り込むのはせいぜい、お供え物を狙った小妖で、腕に覚えがなければ見て見ぬふりでやり過ごす程度、と聞いていたのだが……。

「――ライゼス!」

今は考える時間も惜しい。転んだところを妖気の触手で滅多打ちにされるライゼスと、妖怪の間に素早く身を滑り込ませる。
触手が数度身体を打ち付けてくるが、伊達に悪魔ではない。痛痒い程度のそれを黙殺し、ライゼスを抱えあげようと――。


ずぶっ……。

「――――。……やば――。この程度も、防げなくなって、たの……」

触手で埒が明かないと踏んだのか。うち一本を鋭利に尖らせ、まるで槍の如き形状を整えた触手が、脇腹を貫いているのが見える。
急所ではないし、急所だったにしても簡単に死ぬほどヤワではない、が。ライゼスを抱えて避難するのは困難。
となれば――。今は自分が盾となり、慧音が駆けつけてくるまでなんとか時間を稼ぐしかない。
そう判断すれば、ライゼスを守るようにその身体をしっかりと抱きかかえる。数分、それだけ持てば良い、と。

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