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東方逃現郷
 ┗28

28 :ライゼス(創作♀)
2016/10/24(月) 19:45

「おじさん! 貸りるわっ!」

「お、おい!? 嬢ちゃん!?」

慧音が辿り付くまでに二人を保護していた、野次馬の中の一人のおじさんが持つ、三叉のクワへとライゼスは手を伸ばし、強引に奪い取った。
そのままアイリスの元へ、他の何にも目をくれずに走る。

「ライゼス!? 無茶だ、何をする気だ!?」

「アイリスを、離しなさい!」

慧音の金切り声を背中に受けながら、幻月に守られていた無力な少女の姿が嘘のように、上から重心を掛けてクワを振り落とす動作。
非力で、それでいて少女特有のぎこちなさがあるのをカバーする、まさに人として敵意を持って放たれる一撃が、アイリスに群がる触手の束、その根元を捉えた。
……しかし、外れた訳でもない、触手はそのままにクワだけが透過したようにして、地面に突き刺さった。
予想だにしない結果の煽りを受け、ライゼスの全力が自身の手首に帰ってくる。

「痛っ…ぐぅ!?」

そして、その瞬間を触手に横薙ぎに打ち払われた。
脇腹に掛かる痛みは鈍く、吐きそうな気持ち悪さを感じつつ、それでも妖怪への敵意は失わず、ライゼスはよろめきながら起き上がる。
まだ反動で痺れている、右手首が…右手が、熱い。腸の奥底にも同じような熱が伝播してくる。

(なによこれ、体の調子が、変…。収まりなさい…今はそんな事、自分の事なんて気にしていられる余裕なんて…!)

まだ態勢を整え切らない間に、触手は極めて無機質、そして冷淡に、細く捻じるようにして再び螺旋の槍へと姿を変えた。
アイリスより強烈な敵意を持つライゼスに対して、確実にトドメを加えようというのだ。

「い、いかんっ…やめるんだ!」

慧音も輪の内周へと飛び込み、両者に対して制止を掛けるが、間に合わない。
自身の武器は役に立たず、逆に4本ほどもある決定的な凶器を目の前に突き付けられ、ライゼスは改めて、己の命運を悟った。

もう何の言葉も、感想も浮かばなかった。状況を打開するだけの力を抱えたまま、こうして無力な人間のまま、
人間では受け止めきれない圧倒的な力に覆い込まれて、身の丈に合わないような事で命を散らすのだ。
幻月と、アイリスを巻き込んだ。その事実の償いを果たせずして。
走馬燈なんかを脳裏に浮かべて、逃避するのは嫌だった。だから、ライゼスは自業自得なるままに己の業を抱え込むようにして、クワを握る両手を合わせ、祈った。
最後まで、不条理に抗い続けられますように、と。
後はもう無意識だった。相打ち狙いさえも無駄かも知れない、それでも、目を閉じたままでクワを振るった。

「………!」

触手にクワの刃が突き刺さり、そのまま力を掛けるほどもなく中折れして、切断した触手を雲散霧消のように搔き消した。

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