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東方逃現郷
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33 :
ライゼス(創作♀)
2016/11/02(水) 18:58
「おいっ、何で妖怪を庇うんだ、嬢ちゃん!」
「さっきの化物の姿、あれが妖怪の正体なのよ!」
「こうして子供の姿に化けてるなんて狡猾なものだわ、あんた達が一番分かってるでしょ、そんなにボロボロになってまで!」
騒ぎが収拾したかと思いきや、その束の間、アイリスと少年のお互い衝動的に取った行動によって、周囲の観衆から非難の声が沸き起こる。
「ど…どうして、解決した後になって…。痛っ…うぅ、待って、この子が怯えています…!」
アイリスがしっかりと懐へ妖狐の子を抱え寄せ、弁解の声を上げるが、先に額に受けた痛みに表情は強張り、周囲の怒号に掻き消されてしまう。
「妖怪を生かしておいたら、今度は子供達が食べられるでしょうが! ほら、あんたも今のうちにこっちへ来るんだよ!」
「あ…! あっ…」
アイリス達以上に周囲の状況に困惑し、拳大の石をバツの悪そうに両手で抱えていた少年が、保護者らしいおばさんに手を引かれ、強引に人衆の輪の中へと連れられて行く。
直情に任せて妖狐に石を振り下ろした瞬間とは様子が違い、アイリスに何かを言いたそうに眉を寄せ、悩ましそうな悲しそうな表情で視線をくべていた。
「け…慧音…。これは一体…? なんで、みんなあんな…!」
人里の住民が態度を変貌させている、輪の反対側の様子にようやく気付き、ライゼスは震える声で問い掛けた。
妖怪の暴走は沈静化し、自然に人払いが進むだろうと、一息付いた後でどことなく楽観的に考えていたところだった。
自身の軽はずみな行いが生んだ影響をまざまざと見せ付けられ、表情を青ざめさせている。
「……人里の環境からして、こういう妖怪騒ぎにはとてもデリケートになるものだ。
実情から言って、人里から一歩外に出れば襲われるという認識がある中で、ここは人の安全が唯一保たれている監獄のようなところなんだ。
その中に、私のように出入りが許可されている妖怪や、また人に化けて潜み住む妖怪が居る。
それらは決して人里の中で大事を起こすつもりが無いから、という暗黙の了解によって野放しにされている…して貰っていたが、
あくまでも人間の身には手に負えないからという結論によるものに過ぎない。
少なからず、人間は妖怪に敵対感情を持っているものが殆どだろう…という事だ。その大小の程度はあれどもな。
自分達の安全が保障された後で、ああして声を張り上げる輩が居るのも、また人間の心理という事なんだ。
彼らとて、『いざ身に危険が迫ればこうして一致団結して、妖怪に反旗を翻すぞ』という意思に、大衆を誘導させたいつもりだろうが…。
あぁ、身に抓まされる思いだ…共存するどころか、過激思考に染まっては弱い人間たちの方がかえって自ら命を落とす事になる。間違いなく…」
人里の住人がああした行動に出たのは、気が大きくなったかのような集団心理でもあり、また妖怪に生活を脅かされたという被害意識もあるだろう。
しかし、自分達が訪れるまではまだ平和であった人里に、こうして諍いが起きてしまったのは、何かしら…因果関係を上手く説明できない、そんな罪悪感を感じずにはいられなかった。
「そ、そんな…。これじゃまるで、強者と弱者の立場が逆転しただけ…。あの子には、本当にもう…」
「分かっている。幻月が上手くやってくれたのだろう、妖力が暴走していたのを正常に戻してくれたようだな。
元々、お供え物をくすねて腹を満たしていただけの子狐だ。……ここだけの話、私は以前からあの子の事を認知していた。生徒に化けて、私の寺子屋に勉学の教えを受けに来ていたんだ。
お前の思う通り、あの子には本来あのように大っぴらに幻術を扱うほどの妖力など備わっていない…」
「じゃ、じゃあどうすれば…!」
「私が行ってくる。お前は幻月の様子を診ていなさい。
身を投じてお前の身を守ったんだろう? 悪魔らしからぬ事だとは本当に思うが…
ここまでお人良しなのは彼女なりの矜持を貫いたとしか、言い表せないな。
……ライゼス、お前も責任の取り方を考えておく事だ。過ちは物事を知らなかったといううちの一度きりしか許されないものだよ」
未だ意識を取り戻さない少女へと注意を向けさせる、その言葉によって場にライゼスの足を縫い止めるようにして、それから慧音は踵を返した。
顔を背ける瞬間まで横目に向けられるその眼差しは、どこか落胆したような、失望したような…そんな冷ややかな印象をライゼスに感じさせた。
「………」
責任…。一体、自身にこれ以上何が出来るだろうか。
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