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東方逃現郷
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39 :
幻月(東方旧作)
2016/11/06(日) 19:47
「ゆ、許し――助けてくれぇっ! 悪かった、済まなかった、お前を見捨てちまって――だから、ガキだろうがなんだろうが妖怪なんざどうなっちまっても構わねぇって――いっそ、殺しちまえるときに殺しちまったほうが良いって……!!」
――ある意味身勝手な罪悪感から来る、妖怪への歪んだ復讐心に囚われた男。
自分のしたことを正直に全て明かし、土下座までして見知らぬ妖怪の許しを請うたライゼス。
どちらに分があるかは、幻月からすれば明らかである。一つ息をついて、とりあえず自分の役割が片付いたと。
……悪魔でありながらして――、否、あるいは悪魔なればこそ、幻月はまだ気づけない。そもそも、根本的な人妖の間に横たわる溝の深さを。
「――いや……、うん、なぁ」
「聞きゃぁ、慧音先生も外的な要因があった、つってたし……なぁ」
あちこちで、ボソボソと囁き交わす声が聞こえ始める。
一度加熱したところに、二度に渡って冷水を浴びせかけられたこともあってか、比較的冷静だった里人から、徐々にシラケるような空気が伝播していき、少なくともあとは慧音に任せても大丈夫だろう、と思える状態にまで落ち着きつつあるのが感じ取れる。
幻月もとりあえず安心して肩の力を抜きかけた、まさにその瞬間。
「いやでも。……外的要因があるってことで。その要因は、そっちの嬢ちゃんなんだろ?」
「触れなきゃ起きないっつったって、いつまた――、そのガキだけじゃねぇ、例えば慧音先生までこんな風になったらどうなるってんだ?」
「――そっちの嬢ちゃんは、外来人っつっても人間なんだろ? ……なら――」
――背筋を冷たいものが走るのを感じる。
ライゼスが土下座してまで謝罪しても。男が自身の歪んだ復讐心を満足させるために周囲を煽動したということを暴き立てても。
……周りの人間は、「どこまでも人間のことしか考えていない」。
「人間であるライゼス」は里に身をおくべきで、そのライゼスが引き起こしかねない問題を対処するそのために、人里を徹底した妖怪禁制の場にすることすら考えているのだと。
無論、それが困難であること、一時の極論であることが読み取れないほど幻月も耄碌はしていない。
だが、それでもそんなことを思いついてしまえること、そしてそれがごく当たり前のことのように口に出してしまえることに。
……総身が震えるような恐怖を、人間に感じざるを得なかった。
『――人間なんて興味ない。どいつもこいつも、自分のことしか考えない。だから、わたしは人間の命なんてなんとも想わない。……姉さんがいればそれでいい』
――いつか自身の双子の妹が語った言葉が鮮明に頭のなかに蘇る。
その時は、そんなことはないと、人間だって話せばわかる者も居ると、笑って窘めた。
――今一度、同じ言葉を投げかけられたとき、自分はそれに同じ対応を即座に返せるだろうかと――。そんな自問に回答できない自分にもまた、冷たい恐怖心を感じて。
幻月は、その場に立ち尽くすことしか出来ずに居た。
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