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東方逃現郷
 ┗40

40 :アイリス(創作♀)
2016/11/08(火) 18:24

「そうだよな。本来なら人里に妖怪が住み着くのを黙認してるのがまずおかしいんだよな」
「あぁ。その子がそんな爆弾を抱えてるならその子の為にも、この期に妖怪の徹底排斥をした方がいい気がする」
「そうね。そのせいで住めなくなるなんて可哀想だもの」

幻月の力で一度は鎮まったかに見えた妖怪排斥の熱が再び誰からともなく拡がっていく。数人の囁きが幾人かの輪になり、その輪が集団と化して止める間もなく、気付けば妖狐を見る目が同情から困惑。困惑から疑念。疑念から無視、あるいは敵意へと塗り替えられる。

「ひっ!?」

冷たい敵意にさらされた妖狐は咄嗟にアイリスにしがみ付くが、すぐにその手を離す。妖狐にとってアイリスも周りの民衆も自分の知らない人間であることに変わりはないのだ。唯一信頼できる慧音は説得に必死でこちらに気を回す余裕はなく、その説得も焼け石に水で功を奏してはいない。

――ポタッ

不意に妖狐の腕に水滴が落ちる。雨かと一瞬思い、鮮やかな赤い色をしたそれにアイリスが自分を庇って負傷していたことを漸く思い出す。彼女がどんな人でも、助けてもらったのならお礼は言わないといけない。

「あ、の……うぁ」

せめてお礼を口にしようとした傍から悲鳴へと置き換わる。別にアイリスが悪鬼羅刹のような形相だったり、目の前に凶器があったわけでもない。深く俯いた彼女の表情は前髪に隠れて見えないが、それでもアイリスがひどく怒っていることだけはいやでも伝わってくる。

自分が何かしてしまったのか。それともこの目の前の少女も助けてくれたのは何かの気の迷いで、結局妖怪なんていなくなれば良いと思っているのだろうか。自分たちだって望んで妖怪に生まれたわけじゃないのに。どうして自分たちだけがこんな――

「ひぅッ!」

不意に差した影にハッと我に返ると、アイリスの伸ばした腕がすぐ目の前まで迫っていた。今更逃げても遅く、悲鳴と共にキュッと目を瞑る。このまま死すら覚悟した。

「大丈夫。私の後ろに隠れてて。絶対に、見捨てたりなんてしないから」

思いがけない強くて優しい言葉。頭に伝わる心地よい感触に、おっかなびっくり目を開いた妖狐が目にしたのは、自分の頭から手を離し、毅然とした顔で前を向くアイリス。スッと妖狐の体から力が抜ける。

人間は皆怖いものだと思ってた。慧音先生は優しいけれど半分は妖怪だし、自分に優しくしてくれる人間なんていないものだって。でもたった一人、たった一人だけでも自分の存在を受け入れてくれる人がいたらこんなにも救われるんだ。

「いつまでも腑抜けたこと言ってるんじゃないわよーっ!」

ドォン!! と、全力で壁を殴って人間たちを黙らせたアイリスの後ろで、妖狐は先ほどまでと違う涙を零していた。

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