※独自設定、捏造過多
華燭を灯す前夜
紆余曲折──と書いたものの主因は花嫁修行もとい嫁に行く気がなく、その全てを放棄して星槎乗りとして生きて来たが故だけれど、嫁入りの準備にそれはもう苦労をした。まず鬼灯での染色、染め物をしたこともなければ、一生無縁だと思っていたのに。応星に手解きをして貰って、なんとか形にはなった筈。思えば本当にあの晩で全てが変わったものだと思う。そこからは曜青へ行く準備や、戻ってきてからもせっせっと針仕事に勤しみ、時には鏡流に泣きついて、ついでに景元から美味しいお菓子を分けて貰ったり、もう無理ってなったときには応星に知恵を借りた。そして何より丹楓があれで裁縫が出来ることに対して、何故だかどうしようもない程に対抗心を燃やしてしまったことを此処に告白しておこうと思う。スイカの種は飛ばせないのに裁縫が上手いなんて聞いてない。
そんなわけで二ヶ月以上をかけて仕上がった刺繍の出来は上々。満足の行く仕上がりになったと思う。鬼灯で布地を緋色に彩り、翠龍の刺繍、そして持明族の象徴たる蓮の花、龍の傍へは淡藤の狐を添えて。縫い目は多少の歪さはあるけれど、そこは御愛嬌。本当に曜青で全てを済ませていたら二ヶ月以上も会えないところで、下手したら曜青に飲月君が乗り込んできたと大騒ぎになるところだった。笑い事じゃない。
そしていよいよ、明日。全ての準備を終えて嫁入りをするのだと思うと感慨深い。両親にはタイミングが合わず会えなかったが羅浮には着いたと報せがあった。鏡流と応星がもてなしてくれるそうだ。あの二人なら安心だろう。
古い習わしではあるけれど今夜は丹楓とは違う部屋で眠り、あたしは明日の朝(というにはもうほぼ深夜ではという時間)から身体を清め、磨いて丹楓が仕立ててくれた花嫁衣装に袖を通す。丹楓の瞳──古海の色を宿した美しい上質な衣を纏って、そしてあたしは正式に楓妃となる。丹楓が「我が妻に相応の位を授けよ」と龍師に迫り、そして与えられたのが“楓妃”。我が背の君から一文字貰った贅沢で大仰な称号だけれど、それに相応しくありたいと思った。
背筋が伸びる、明日を迎えてもあたしは何も変わりはしない筈なのにそれでも間違いなくこれは節目だろう。曜青の狐族、星槎乗り、ナナシビト、雲上の五騎士…様々呼ばれるあたしを構成する全て、そこに新たに加わる楓妃。愛しいあの人の花嫁となる。昔、ひいおばあちゃんが言っていた。花嫁とは人生を花に喩えたときに一番美しく咲き誇るから花嫁なのだ、と。あたしもそうなれるだろうか、なれるといいな。
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Bai Heng