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130.BLUE LAGOON
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13 :
翠縹
2024/07/24(水) 21:35
帰る場所があるくせに、それを捨てた。この選択を取ったこと自体が世間知らずな気もしている。
黒衣森の奥深くにひっそりと存在する、何代も前から他種族との関わりを絶ってきた村が自分の故郷だ。
都会を知った今は村の生活は随分と質素だったのだと理解したが、自給自足で全てを賄っている村の秩序はしっかりと保たれていたし、村の人たちはきっと今も幸せに暮らしている。飢えの心配もなく、争いとは無縁に安心して暮らせる穏やかな村だ。近くには青く透き通るような綺麗な湖があって、その畔で本を読むのがとても好きだった。
自分も不自由もなくこの歳まで育ったのだからとても恵まれていたと思うし、幸せに暮らしていたことだって確かだ。思い出も多い。だが、広い世界を知ってしまった自分はもう、あの狭い世界では生きていけないと思う。
冒険者として村を出ること伝えた時、父はこちらの顔を見ることもなく二度と故郷に戻らないことを誓わせた。母は俯いて何も言わなかった。兄は困った様に笑って「元気でやるんだよ」と言って強く抱き締めてくれた。その日の夜中に村を発ってしまったから、それが家族との最後だった。
代々続くあの閉鎖的な村で、外に興味を持ってしまうことは脅威だったのだと思う。子供の頃に何かと可愛がってくれた人がある日突然村から姿を消したことがあったが、今考えればあの人も自分と同じだったんだろうな。子供の頃は作り話だと思っていたが、あの人がこっそりと聞かせてくれたのはアウラ族の御伽噺だったから。
彼に家族へ手紙を書いたらと言われたことがあるが、何を書けばいいのか、そもそも手紙を書くべきなのか、今も分からないままだ。……後悔してからでは遅いのはわかっているのだがな。
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