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130.BLUE LAGOON
 ┗25

25 :翠縹
2024/10/08(火) 17:00

先日、ラザハンとトライヨラで買った土産を持って故郷を訪れてみた。

手紙を書いたらどうか、と弦月の彼に言われたが何を書いたらいいかわからなくて時間だけが過ぎてしまっていたし、決して家族ことが嫌いになった訳でも無く、故郷を出てからもずっと家族のことは気になっていたから。

受け取ってもらえるかは分からなかったが、父と兄にはラザハンで見かけた彫刻が綺麗で使い勝手の良さそうなナイフを、母にはトライヨラのアルパカの毛で編まれた色鮮やかで暖かそうな膝掛けを選んだ。




結論から言えば、受け取ってもらうどころか、故郷に帰ることすらできなかった。

外部との関わりを絶っている故郷の村は周辺の森に人祓いの類いの幻術が掛けられていて、外部の人が踏み入れると方向が分からなくなって迷子になり村に近付けないようになっている。

狩りで駆け周り熟知していた故郷の森で、生まれて初めて迷子になった。

どれだけ歩いても村の入り口に辿り着けなくて、それでも三日三晩さ迷い続けたが自分の目に映る森は自分の知っている故郷の森とはまるで異なっていた。

ああ、自分はもう外部の人間なのか。
反対を押し切り故郷を出て冒険者になることを自分が選んだ癖に今更になってそれを理解して、勝手に傷付いたことがあまりにも滑稽で少し笑えてきてしまった。「二度と戻るな」と、そう父に言われていたのにな。

鬱蒼とした森に気分を落としながらまた出口を探してさ迷っていた時、ふと見覚えのあるクヌギの木が目に入った。クヌギの木なんてどこにでも生えているが木のうろの位置と形が自分の記憶しているもの全く同じだったし、近付いてよくよく木を見てみればその幹の下の方に自分の名前が下手くそな文字が刻まれていた。9歳頃だっただろうか。危ないからと持たせて貰えなかったナイフを漸く持たせて貰えるようになって、嬉しくて仕方がなかった頃にこっそりと彫った記憶がある。大きなどんぐりの実を沢山つける木でお気に入りだった。

この木のおかげで自分のいる位置と故郷の方角がわかったが、もう一度訪れてみることはしなかった。きっとまた村に辿り着くことができず、あの森をさ迷い歩くことになるだろうから。

渡すつもりだった物をクヌギの木の根元に置いて、木のうろの中に子供頃に貰ったナイフを置いてきた。



「帰るか」と思わず呟いてしまった時、情けなくも目頭が熱くなるのを感じた。故郷を捨てたのは自分なのにな。

本当に、情けない話だ。


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