変化
悟は以前に比べて変わった。無邪気さが減って自信を無くした。その様子を私は切なく思いながら、でもどうすることもできないでいる。それらが私と過ごす中で蓄積された小さな澱みの結果だと分かっているから。澱みをもたらした人がどぶ攫いをしたところで一時しのぎで悟は私の傍にいる限り、付き合いたてのころのような無邪気な輝きを取り戻すことはない。分かっていながら私は悟の傍にいる。離れることは互いに望んでいないし、愛し合っているからね。
変化はかならず訪れる。変わらないものなんてないというのはこの世の真理だから。悟が変わったように、私もきっとあの頃に比べたら変わっている。
悟はよく頑張る、というけど私はこれが好きじゃない。ネガティブな「頑張る」だから。頑張らなきゃ維持できない関係は自然ではないとも思うし少なくとも私と悟の間で頑張らなければならないことがあってほしくない。悟はとても自己肯定感が低い。基本値が地面につくんじゃないかと思うほど自分に対しては否定的だ。そのわりに私についての評価はびっくりするくらい甘い。だから私を幸せにしようとして自分を追い込み、少しでも私の感触が悪いとひどく落ち込む。……たまにそこは楽観的なんだ?と思う時もあるし悟のことは分からないといった方が正解。私がいるだけで幸せと言ってる言葉は本当だろう。悟由来じゃない落ち込みで私が凹んでるときは悟はせっせと世話を焼き、なんの苦でもなさそうだからね。
悟が自信を無くして「なにもうまくできない」と言うと切ない気持ちになる。なんとなく今までの時間を否定された気持にもなる。そしてそれを言わせているのは私だと断罪されているとも分かっている。
もっと可愛げのある人が君の恋人だったら君は苦悩しなかったのにね、と、私はたまにいう。悟は傑がいいから、と答える。
いつか、「そうだね」と返ってくるのかもしれない。そのときは送り出す覚悟はできている。
いずれ来る、かならず訪れる、エンドロールの日まで。それまでは幸せに暮らそう。▽
「いつかそのときが来るとして、ふられるのは私の方だと思う」