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┗141.有明月(2冊目)(6-10/37)

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10 :夏油傑
2024/08/16(金) 08:29


記念日と心理テスト

盆の季節は術師にとって繫忙期かつ教祖の私は信者の猿ども相手にまあまあ忙しくしているよ。
そして見つけた心理テスト!これは面白そうだね。私たちは今日が付き合って丸二年の記念日だしせっかくだからやろうって話になったんだ。
心理テストはこちらの方々から拝借してきたよ。
Take a Coffee Break.
長くなりそうだから二つに分けようかな。悟も回答を日記に載せたらふたりで回答を見ようって話してるんだ。
それから私信をくれたり、本棚に入れてくれている子たちはありがとう。今度私信を送らせてもらうよ。

心理テスト①深層心理テスト

【1】あなたは知人から一冊の本をもらいました。それは、有名な童話のようですが、あなたの知らない物語です。この本はどんな内容の物語だと思いますか。

頭に浮かんだのは一人の男の子。ヨーロッパ風でやや中世時代かな。農民のような十歳くらいの男の子が冒険に出るけれど素朴な牧歌的な背景が続いている。男の子は外の世界を知りたくて村から出て、行ってはいけないと言われている森を目指す。その森を抜けたら村人が誰も知らない世界が広がっているからね。森は深く、様々な試練が彼を襲うだろう。なぞなぞを仕掛けてくるキツネ、巣から落ちた雛を巣に戻したお礼にどちらの道を選べばいいか教えてくれる鳥、穴が掘れなくて困っているモグラを助けたらお礼に土の中の蟲をたくさんくれる。歩いていたら池のふちで蛇とにらみ合いをするカエルがいたから蛇に蟲をあげて仲裁するんだ。ああ、熊もいるだろうね。襲ってくるけどミツバチの巣を取る助けをすることで見逃してもらえる。だけど巣を壊されたハチは怒ってしまう。彼らの家を見つけるため男の子は巣箱を作らないといけなくなる。そんな風に森を何とか抜けると旅の商団に巡り合うんだ。彼らは男の子の村を通ってきていて村は大騒ぎ、両親は悲しんでいると伝える。男の子は帰りたくなるけど商人たちは引き返すことはできないから、このまま一緒に旅をして一巡りしたら村に立ち寄ってあげると男の子に約束する。そうして男の子は両親にあてて手紙を書き、森で仲良くなったカラスに託して、旅の商人たちと国中を巡り、最後には村にたくさんのお土産と富を持って帰るのさ。…こんな物語かな?

【2】本をめくっていくと一枚だけ色の違うページがありました。それは全体のどの部分にあると思いますか。

最後のページだね。

【3】物語の結末は、どうなったと思いますか。

始めに語った通り、ハッピーエンドだよ。男の子は成長し知恵をつけ、勇気を身に着け、村を出て行ったときの身勝手さを反省しながら村に帰って両親と村人と再会するんだ。男の子が持ち帰った富はお宝だけじゃない。彼が国中をまわって集めてきた知識こそ富だろう。

【4】あなたは今、ダイヤモンドを一つ持っています。それはどれくらいの大きさで、どんなダイヤモンドですか。なるべく詳しく、具体的に書いて下さい。

随分いきなりだね。ダイヤモンドか。大きめの真珠くらいの大きさでブリリアントカットされている。色は混ざってなくて、輝きを放っているよ。

【5】あなたのダイヤモンドを盗もうと、誰かが後ろからこっそりと覗いています。さて、それは誰でしょうか。

猿に決まっているだろ?盗みを働こうなんて思うのは猿しかいない。それか仕事に困った呪詛師や泥棒と兼業の呪詛師。

【6】あなたはそのダイヤモンドをもっと磨いてみることにしました。さて磨いた結果はどうでしたか。今までより美しくなりましたか。それともあまり変わりませんか。

元々ブリリアントカットされているしちょっと磨いたくらいではあまり変わらないんじゃないかな。ああ、でも表面の汚れは落ちて輝きを増したと思うよ。

【7】あなたはあまりにも美しいダイヤモンドに名前を付けることにしました。さあ、どんな名前を付けますか?

悟。……悟ほど綺麗な存在を知らないからね。


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9 :夏油傑
2024/08/16(金) 08:26


深層心理テスト②

心理テスト②【8】あなたは大切な人にプレゼントを買うために街へ出かけます 家から街へつくまではどんな道のりですか。

晴れていて心地のいい気温と風だよ。家からの道は舗装されていて整っている。人影はまばらで静かだ。道の傍には野草があり、花が咲いている。手入れされた家の庭には花木があって綺麗な花が満開だ。木々は青々とし、空は高く、ときどき道端で虫を見かける。日差しを避けた野良猫が軒下から私を見ている。屋根の上にはカラスがいるだろう。鳩は道を歩き、とんびの鳴き声もする。蝉の声を聴きながら、私は街に続く坂を上ったり下りたり、ゆったりと歩いていくよ。

【9】街につき あなたは人形を買うことにしました あなたが手にした人形を見て『それが欲しい!』と言っている人がいます それは何歳くらいの人ですか?

20歳くらいの人かな。ちょっと年齢不詳で定かではないけど幼い子供には見えない。

【10】あなたは人形をあきらめて 手作りのケーキを作ることにしました あなたは一生懸命作りました さあ 出来上がったケーキを見た感想を言って下さい。

手作りだからプロのように美しくは仕上がらなかったけど、すごくおいしそうだ。

【11】相手にプレゼントをあげようと、あなたはタクシーに乗ろうとしています。手を上げると、そのタクシーは乗車拒否をしました。去っていくタクシーに一言、言って下さい。

仕方ないね。

【12】本棚から取り出した絵本のページを何気なく開いてみると、そこには恐ろしい魔女の姿が…。この魔女はどんな性格で、どんな魔法を使うのでしょう。詳しく説明して下さい。

この魔女はひどく自己中心的な性格だ。元々はそうではなかった。けれど恐ろしい容貌が魔女をそうさせてしまった。周りから恐ろしいと言われ続け、疎まれ蔑まれるうちに自分を守るために自己中心的になったんだ。魔女は本当は寂しがりやだろう。そして優しい心も持ち合わせている。だから独善的ではあるけど魔法はいい面も悪い面も持つ。人を拘束したり気を失わせたり記憶を奪ったりする魔法を使う傍らで、その人の傷を癒したりする魔法も使うのさ。

【13】この魔女が住む城の地下には、人が閉じ込められています。何人くらいの人が囚われているでしょうか。

10人くらいかな。

【14】この人達は、いったいどんな理由で閉じ込められているのでしょうか。

彼らは病に罹った人たちだ。それも医師からは治らないとされたり、ひどく苦しんだりしている。だから魔女は彼らを閉じ込め、トラウマに苦しむなら記憶を奪い、身体が蝕まれているなら薬を調合し、彼らを助けている。時に治療の過程で病がひどくなったり副作用に苦しんだりするから閉じ込めているのさ。

【15】この絵本の最後で、魔女は自分の行いを悔い改めます。さて、どんな出来事がきっかけだったのでしょう。

病から救われた村人たちが魔女にこれまでの蔑みを謝ったからだ。容姿で蔑み、魔法を恐れ迫害してきたことを。魔女はそれを受けて自分も孤独には生きていけないこと、治療や身を守るためとはいえ魔法で斥けてきたことを悔い改めるのさ。そして彼らは共に暮らしていく。助け合いながら。…こんなところかな?楽しかったね。どんな深層心理が暴かれるのか楽しみだよ。


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8 :夏油傑
2024/08/09(金) 00:00


二年

今日は悟と出会って丸二年が経つ記念日。一年を超えてからはあっという間に過ぎ去った気がしている。私たちはデートにも赴かなければ旅行にも行かず、猿どもとの接触を絶って二人きりで暮らしているから劇的なことは特にない。平凡な日々を過ごして時々大喧嘩をして、二年の間に別れる別れないの危機も一度あった。平凡な暮らしなのになんで喧嘩になるのかお互い分からないけれど、一度喧嘩になるとギクシャクしてなかなか折れない。頑固でもなきゃ特級になれやしないから当然なんだけどね。悟が怒りをあらわにすることは珍しいけれど、たまに悟が怒るとそれはそれは特大級の喧嘩になるよ。高専のころだったら校舎を吹っ飛ばしていたね。そんな風に喧嘩しつつもなんだかんだ仲直りして疲れたら横たわって、毎日「おはよう」と「おやすみ」を繰り返すうちに二年が経っていたのさ。喧嘩してない時は仲良しだよ。
実は記念日の直前私が体調を崩していた。喉の痛みから始まり、発熱、倦怠感を経て腹痛、口内炎といろんなところがぼろぼろになり、治った今も頭にモヤがかかったような感覚はなかなか抜けない。おかげで日記の筆を執れない日が続いていたんだけど記念のことは書き記しておきたいからね。
二年の記念に悟が夏野菜のカレーとスフレチーズケーキを作ってくれた。カレーは私と悟にとって特別なメニューなんだ。一緒に食べてチーズケーキをいただき、二年を祝った。
これまで、毎月祝ってきたことのほうが、やってること自体は豪華だと思う。贈り物をしたり、豪華なご馳走を並べたりしてきた。二年という節目に何をしようか悩む悟に、私はなんら変わらないものでいいと言った。
なんら変わりないことが、きっと私たちを象徴すると思ったから。

まぁ、その夜に揉めるなんてそれも私たちらしいじゃないか。
揉めたら頭を冷やしたくなる私と、そばにいたがる悟でよくすれ違うけど流石にヒートアップしたくなかったから頭を冷やさせてもらった。
舌に馴染まない苦味の煙草を吸い、紫煙を吐き出し、真夏の蒸し暑い湿気と熱気を孕んだ夜気の中で酔えもしない酒を飲む。美味しくもないもののおかげで冷静になる。真夏の蒸し暑さの不快感のおかげで頭が冷える。鬱陶しい虫がまとわりつき、今は少なくなってきた蛍光灯に焼かれ落ちていく姿を眺め、夜だというのにどこかから聞こえてくる蝉の声に急かされるように煙草を始末して土産の羊羹を持ち、悟のもとに帰ったよ。
もう夜遅かったし私は眠かったから、悟より早く寝た。朝はいつも起きてこない悟と早起きな私。夜はよく寝る悟と少し夜更かしな私。睡眠時間が短い私と長い悟。そんな私たちだから私が先に寝るのは珍しい。悟は当てつけと思ったかもしれないけど本当にただ眠かったのさ。

二年経って変わらない毎日を過ごして記念日に揉めたりしながら、やっぱり悟が好きだな、と思うんだ。
ああ、迎えにきてよって言えばよかったかな。でもそんな10代の女の子みたいなこと、教祖もやってる私がするのは恥ずかしいしさ。
とりあえず三年を祝えるように頑張るつもり。
二年間ありがとう、悟。愛してるよ。



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7 :夏油傑
2024/07/22(月) 13:26


こいびと

一冊目の日記には鍵をかけたままだから、改めて私たちについて馴れ初めや、いろんなことを紹介しておこうかと思って筆を執っている。日記を入れ返してくれたり私信をくれたりした君たちはありがとう。また機会を見ていずれ私信をさせてもらうね。
私たちが再会と呼んでいる出会いは2022年の8月9日。それから一週間後に密会を取りやめるより傍に居続けることを選んだから、いわゆるお付き合い記念日は8月16日になる。8月9日のあの日、私は夜明けに目が覚め、まだ陽がのぼらない海辺をさまよい歩いていた。昔、悟と任務で海に行ったり、ナマコにはしゃぐ悟を見守ったことを思い返したりしながら、もう果てしない夢の向こうに追いやってしまった親友の姿を波打ち際に探していたんだ。私たちが再会するときは殺し合いをするときだろう、と思いながらね。そんな時に波に押されたり引かれたりしている小さなボトルを見つけた。拾い上げてみると中には一通の手紙。「拝啓、親友殿へ」なんて書き出しで一週間、私と会いたいと大海に投げられたものだった。私は悟が落としていた「敬具」を拾って手紙を書き、ボトルに入れて悟に届けた。密会場所への道順が届けられたのはその日の夕方だったかな。
密会場所で私たちは数年ぶりの逢瀬を果たした。悟はサングラスをやめて怪しい包帯姿になっていたし、私はいかにも胡散臭い教祖姿になっていたけれど口を開くと青春を共に過ごしたあのときの悟のままで……時間を忘れて語らった。笑って、楽しんで、寝る間際には「持ち帰り」と称してお互いに押し付け合った。持ち帰ったほうが悔しがったけど、あれは私たちなりの「明日も会う約束」だったんだ。悟は本当に優しかった。今も変わらずに優しいままだよ。私たちはお互いを楽しませようと色んな話をしたし、私はウクレレをマスターして悟はフラダンスをマスターしたね。悟は優しいし楽しいし面白いのだけど、あの頃一番嬉しかったのは「教祖となり大義を抱いた私をそのまま受け入れてくれた」ことかな。だから数カ月はいつかはぶつかり合う未来を覚悟していた。共に歩むうちに大義と悟の夢がぶつからずに済む方法を探して合意するまで、いつか、殺し合うことも胸に覚悟して私たちは共にいた。
私たちはまだ二十代前半だから本来あるべき未来より過去を生きている。本来の未来は、本来の私たちに任せて私と悟は「あったかもしれない未来」を一歩ずつ刻んでいるところだよ。
あの頃……再会したころ、私も悟も恋愛を全く意識していなかった。お互いに疲れ果てていたというのもあったし私は長い長い物語を酷い形で幕を下ろされたばかりだったし悟は傷つくことが多くて、ただただ、親友と話したいって、それだけだったんだ。
それなのに私も悟も一目惚れをして今も一緒にいるのさ。
縁って不思議だね。あるべきときにあるべき縁に引き寄せられる、悟と出会う運命なら、私は信じたい。
ふふっ、少しは伝わったかな。私たちのこと。



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6 :夏油傑
2024/07/17(水) 10:58


心理テスト

密かに読ませてもらっている日記に心理テストが置いてあったから、悟とやってみたよ。私の答えは1の書斎のデスクで悟は2の寝台の上だったんだけれど。

答えが出るので折り畳み私は恋愛に慎重な方で悟はマメでアタックする方。…結構当たってるんじゃないかって悟と話していたんだ。普段は悟の方が控えめなんだけれど要所要所で私のことが好きだって激しくなるのも悟でね。私はどちらかといえば悟の負担になるんじゃないかって考え込んでしまうほうだから。お互いに大切にするやり方が違っているだけで、お互いを大切に思ってることには変わりないんだよね。ふふ、思い返せば確かに悟は情熱的で今でも私にアタックしてくれているよ。

私たち、実はいろいろあってちょっとギクシャクしていたんだが、心理テストはいい緩衝材になったように思う。新しい風というのかな。二人で袋小路に迷い込んだときに気分転換になって、そこからいい方向へ向かった気がする。
好きだからこその苦しみもあるし、好きだからこその幸せもある。苦しいときも、苦しいのは好きだからなんだって実感する。それほど好きなひとがいることにも、それが悟であることにも、感謝しているんだ。最後は幸せだと思う。悟が私を好きでいてくれるかぎり、しあわせだよ。


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