こぎつねこんこん
ことのあらまし
先日のこと、銀行からの求めに応じてある試合に臨んだ。それが、銀行が手を焼いているとあるギャンブラーを厄介払いするための大変手間かつこちらにも相応のリスクのある試合で、もちろん問題なく勝ったが後味は良いものとはいなかった。
身体的なペナルティというよりは精神的なものか。そう簡単に精神汚染されるつもりはないが、精神的なものに由来する疲労は凄かった。そもそも私が出る必要もないゲームだったが、どうしても、と請われては……銀行にたまには貸しを作るのも悪くはない。報酬も、通常の賭け金とは別に弾むという話だったので仕方なく受けたのだった。
それから数日後、担当行員がその副賞だか謝礼だかを持ってきたというので玄関のロックを解除して中に招き入れた……のだが、あのクソ行員め。何が「日頃からの感謝の気持を込めて、村雨様に喜んでいただける品を銀行が用意しました」だ。「きっと気に入りますよ」だの「珍しい品ですのできっと喜ばれます」だの「生活を豊かにします」だのと段々後半怪しくなっていたとは思っていたが……!
>こやだよ〜!
玄関に立っていたのは、おかしな獣の耳と尾をもつ、年端もいかない少年だった。豊かな金毛に湖面のブルーの瞳、ふわふわとした猫毛の合間からぴょんと立つぱやぱやとした毛に覆われた耳、パタパタと忙しなく揺れるふかふかの尻尾、覗いた鋭い八重歯、年の頃は4-5歳と言ったところだろうか…………いや、なんだこれは。尻尾をパタパタとご機嫌に揺らし、自己紹介?を済ませたこども…かつ狐のような生き物は……なんだか何処かの誰かの面影を感じる。……もしかして、隠し子か?いや、銀行の仕業か?そもそもこの耳と尾は本物か?なぜうちの玄関にいる?尋ねたいことはたくさんあったが、無垢な瞳がまっすぐにこちらを見ているので反応に困った。ヘタなことを言って傷つけたくはない……できれば、このまま笑顔でいてほしい。そう思いたくなるような顔をしていた。
>むらしゃめのおうちに、こやをおとどけにまいりました!
元気に手を伸ばす仔狐は、私が受け取り拒否した場合どうなるのだろう。もしこれが本当に銀行側が用意したもの、だった場合……脳裏に一瞬最悪の光景が浮かぶ。アレだけこちらの精神をボロボロにするような真似をしておいて、追い打ちをかけるつもりか。ため息を付いてじっと仔狐を見つめる。あまりに私の反応が薄かったせいか、仔狐は少しずつ自信をなくすように尻尾を垂らして耳をふせった。上向いていた眉もしょんもりと垂れている。
>こや、…きましたよ?
その顔を見ていると、思わず抱きしめずにはいられなかった。腕の中に小さな体を囲うと、ピロロッと耳が反応し、たれていた尻尾がまた嬉しそうに振られた。全身でひしっと抱きついてくる。こんなもの、手放せるはずもなかった。
かくして、仔狐との共同生活が始まった。
身体的なペナルティというよりは精神的なものか。そう簡単に精神汚染されるつもりはないが、精神的なものに由来する疲労は凄かった。そもそも私が出る必要もないゲームだったが、どうしても、と請われては……銀行にたまには貸しを作るのも悪くはない。報酬も、通常の賭け金とは別に弾むという話だったので仕方なく受けたのだった。
それから数日後、担当行員がその副賞だか謝礼だかを持ってきたというので玄関のロックを解除して中に招き入れた……のだが、あのクソ行員め。何が「日頃からの感謝の気持を込めて、村雨様に喜んでいただける品を銀行が用意しました」だ。「きっと気に入りますよ」だの「珍しい品ですのできっと喜ばれます」だの「生活を豊かにします」だのと段々後半怪しくなっていたとは思っていたが……!
>こやだよ〜!
玄関に立っていたのは、おかしな獣の耳と尾をもつ、年端もいかない少年だった。豊かな金毛に湖面のブルーの瞳、ふわふわとした猫毛の合間からぴょんと立つぱやぱやとした毛に覆われた耳、パタパタと忙しなく揺れるふかふかの尻尾、覗いた鋭い八重歯、年の頃は4-5歳と言ったところだろうか…………いや、なんだこれは。尻尾をパタパタとご機嫌に揺らし、自己紹介?を済ませたこども…かつ狐のような生き物は……なんだか何処かの誰かの面影を感じる。……もしかして、隠し子か?いや、銀行の仕業か?そもそもこの耳と尾は本物か?なぜうちの玄関にいる?尋ねたいことはたくさんあったが、無垢な瞳がまっすぐにこちらを見ているので反応に困った。ヘタなことを言って傷つけたくはない……できれば、このまま笑顔でいてほしい。そう思いたくなるような顔をしていた。
>むらしゃめのおうちに、こやをおとどけにまいりました!
元気に手を伸ばす仔狐は、私が受け取り拒否した場合どうなるのだろう。もしこれが本当に銀行側が用意したもの、だった場合……脳裏に一瞬最悪の光景が浮かぶ。アレだけこちらの精神をボロボロにするような真似をしておいて、追い打ちをかけるつもりか。ため息を付いてじっと仔狐を見つめる。あまりに私の反応が薄かったせいか、仔狐は少しずつ自信をなくすように尻尾を垂らして耳をふせった。上向いていた眉もしょんもりと垂れている。
>こや、…きましたよ?
その顔を見ていると、思わず抱きしめずにはいられなかった。腕の中に小さな体を囲うと、ピロロッと耳が反応し、たれていた尻尾がまた嬉しそうに振られた。全身でひしっと抱きついてくる。こんなもの、手放せるはずもなかった。
かくして、仔狐との共同生活が始まった。
今日は何の日?
#世界赤十字デーだ
>こやの日!
>……9日になっちゃった
#残念だったな
>村雨が遅いからー!