さて、わたしの可愛い文_次_郎の日記へ手を付けることとなったが…はてわたしには勝手が分からん。筆を取ったはいいもののなにを書いてしまおうか、と文机に座り日記を見つめては天を仰ぎまた日記を見つめ……を幾度か繰り返し、このままでは夜が明けてしまうと思いええいままよと筆へ墨を滲ませここに至る。
文_次_郎は時折不安気な目をする時がある。学園一ギンギンに忍者をし、後輩からも恐れ…一目置かれ、しかし頼りになる我らい組の潮_江_文_次_郎その男が、わたしにだけはまるで伺うような、わらべの様な視線を向けるなど!入学当初のわたしに見せたらきっとなにかの幻術かと思うだろう。その視線を見る度に、わたしはここにいると。どこにも行かんとおまえが安心するまで諭し、言い聞かせ、わたしの真心で出来たゆりかごで眠りに付かせてやりたいと毎度まいどそう思ってしまうからきっとわたしも大概なのだ。
わたしはよく、胸のなかをかっ捌いておまえに見せてやりたい衝動に駆られてしまう。どれだけ言葉を尽くしてもわたしの思いはすべて伝わってはくれないのかと、えも言われぬ感情が襲ってくるのだ。ああ、このままわたしの胸を切り裂いて、両の手でおまえへ差し出せてしまえばいいのにと。柄にも無く、……おい、今笑っただろう。……柄にも無く!そう思ってしまう。それが出来ぬから、先人が生み出し紡ぎあげた言葉を重ね、その愛情を…体温に、目線に、爪の先に、己が持つ全てを使い伝えていくのだろうと。そうしてやりたいと思う相手に巡り会えた事がこの立_花_仙_蔵にとって最大の幸福だ!
結局はおまえが好きという話を間怠っこしく書き連ねただけの日記となってしまったな。今、わたしの男は体調不良のため早寝に勤しんでいる、…まで書き切り、わたしもまた眠りへ落ちたわけだが。今日は朝から文_次_郎がうんとあまえんぼでなあ。おい、文_次_郎。あのな、おまえが思う以上におまえは、うんと甘え上手のあまえんぼさんだぞ、等とひとつ暴露を記して一先ずこの日記を結ぼうじゃないか。
起きたら仙_蔵の字が書いてあった…、ってなぁにを暴露しとる!ぐっ…だから!それはおまえのおかげあってだと言うとるだろうが!!と言うか、…嬉しいもんだなこういうのは。何度も字をなぞるおまえの気持ちがわかった。