猫の呪い。
──なるものを受けているのは俺でもあの方でもなく我が一家の末っ子な訳だが。二振りして細々とした雑務やら他の誰かに頼み辛いあれやこれをあの子に任せがちになるせいで、あの子の名は俺達の間で頻繁に話題に挙がる。 その際、話の流れで南くんの言動を口にする機会も出て来る訳だ。…お察し頂けたかな?あの子の口調は件の呪いのお陰で〝ああ〟だろう。そう、つまり語尾に「にゃ」と付けるあの方が見られる。 俺が強請れば鳴いてくれる、というのは既に試して分かっているんだが、不意打ちで与えられるそれはまた別の味わいがある。無論、鳴いてみせろと促されて従順に鳴き声を口にする姿もクるものがあるがねえ。例え南くんの真似であっても、唇に乗せる事に慣れてしまえば強請らずとも鳴くようになるのでは、と些かの下心が出たのは否定しない。 そも、元より猫のようなひとだ。懐く相手にはとことん懐くが、興味がなければ見向きもしない。愛らしい顔をしてその実じっと相手を観察している。自分を害すものかそうでないか、自分のスペースに入れるに相応しいか、自ら擦り寄って良い相手か……だからこそ懐いた時の喜びは格別とも言える。 共に過ごす時は概ね俺の膝に乗せているものでね、その辺りも猫のようだと思う所以だろう。後は…ふにゃふにゃと猫が甘えるように目を細めて頭を擦り付けて来る仕草も、などと記していると見せた時に叱られそうだ。 ……そう言えば、この一冊は俺から差し出すのなら今暫く後に渡そうと思っているが。その前に気付かれる可能性もゼロではない。この手の場に足を踏み入れるタイプではなさそうではあるが、それでも。 気付いたのなら教えて頂きたい所だ、それはそれで渡そうと思っていた日に向けて記す内容も変わるだろう。
ンフン?話が逸れたかな。アー……俺の可愛いひとの仕草が猫に似ている話か。そう、今日それをふと口に乗せた。猫のようだな、と。軽く返されると思っていたのさ、そうかい?と笑うのだろうなと。 それがどうだ!にゃあ、と完全に不意を突かれて息が止まるかと思った。あれを飼うには何を差し出せば?お気に召す食事と安心出来る寝床、首輪は必要かい?完全室内飼いを希望したい所だな、外になど出せないだろう可愛過ぎて──と一気に脳内に浮かんだ所で、これが猫の呪いかと笑ってしまった。 成程、この語尾のせいで猫のことばかり考える羽目になると南くんが言っていたのはこれか。悪くない、と言えばあの子は嫌そうに「叔父貴のそれは何か違うにゃ」と言うのだろうがねえ。
──…ああ、そうだ。猫と言えば。
꧁꧂ > 某、可惜夜を泳ぐ猫の君へ。 君ほど筆力のある人が美しいと告げる言葉が気になって覗いたそれを二度見したとも。反応はこうだ。待て、これは俺か?…俺だな?ところで今、書庫を整えていてねぇ、其処には君の手記が収められている。気遣いなどではなく当初から。だから驚いたものさ、先を越されてしまったな! 君の言葉に、時折自分が書いたかとすら思う共感を得ている。感情の重さも御せない欲も愛ゆえと分かる、その思考の断片を拝読できるのは有り難い。俺の言葉に目を留めてくれた事にも感謝を。丁度、君が愛する兎の彼の姿も拝見出来て幸いだった…と告げて私信を締め括ろう。
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