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448.そのひともじを
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道/誉/一/文/字(刀/剣/乱/舞)
2025/04/15(火) 04:36
音を食らう。
あなたが寝入るまでの少しの間に、そう言えばひと月前は何をしていたのだったかと思い立って記憶を辿ってみている。俺がまだあなたをご隠居、と呼んでいた頃だな。 初めてあなたを則宗様と呼んだ時の事を覚えている。恋仲になったのにご隠居と呼ぶのもどうか、と言い訳のように考えたのだったか。実の所はそれまでとは違う形を俺が欲しがっただけの話ですがね。伺いを立てるのも違うかと自然に、紛れ込ませるように紡いだそれを咎められなかった事に胸を撫で下ろしたものだ。 それから半月程経って、今度は敬称すら付けなくなりましたが……実の所、あなたをそう呼ぶのは今もまだ緊張する。以前同じ事を告げた時には「そう呼ばせて貰える幸福と愛しさが溢れそうで」と言った気がするが、名をなぞるだけで愛しくなるなど誰が予想した?我ながらトチ狂っているな、とは思いますとも。 あなたに道誉の坊主と呼ばれなくなって随分経つ。それがあなたの特別の示し方と知っているから、俺はあなたが俺を道誉、と呼ぶ度に堪らない気分になる。紡ぐ唇ごとその声を食ってしまいたいと幾度思ったか知れない、…今その唇は穏やかな寝息を立てているが。 お休みなさい、可愛い則宗。明日その唇が紡ぐ最初の言葉が、俺の名であればいいと思う。
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