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82 :ヴェイン
2024/07/30(火) 18:50


黒竜騎士団団長ジークフリートと、まだ何物でもない俺の話

黒竜騎士団時代、あったかもしれない話。
副団長に抜擢されたランちゃん、ランスロットの役に立ちたくて、俺が出来ることを探していたんだけどちょっと強引だったかな、なんて思いながら陣を敷いて天幕を建てて、野営の準備も出来たし次の指示を仰ごう、と思ってその場を離れたのが悪かった。
気配も無く現れた魔物。流動形の半透明なボディの真ん中にあるコアを壊せば倒せる、のに。普段なら遅れをとる事の無い相手だった。
油断したと言えばその通りなんだろう。
ぬるりとした粘液を纏う鋭利な触手が放たれて、予想よりも素早いそれに首筋にかすり傷を負ってしまった。その瞬間、すぐに身体を走った痺れるような感覚に麻痺毒だと思って歯噛みする。
未だにハルバードに振り回される俺じゃあ、力不足なのは分かっている。
分裂していたらしい体を呼び寄せて肥大化する魔物。思う通りに言う事を聞かない体、躙り寄る敵性生物。ああ、俺ここまでなのかな、って思った瞬間、風が吹いた。
唸りを上げて風を切る大剣。対峙していた魔物のコアを一刀両断して現れたその姿に、目が奪われた。
「怪我はないか」
そう、魔物の息の根が止まったことを確認してから振り返るその姿は、憧れて止まない騎士団長のものだった。
一気に身体の熱が上がったような感覚に、怪我を抑えていた手を離す。
傷口が熱くて痺れるようなその感覚は初めてで、でも四肢の自由は効くし頭もまだはっきりと動く。弱毒性の麻痺毒だったのだろう、と後で衛生兵のところに行けばいい、なんて軽く考えていた。それよりも、先程の人間離れした膂力とスピードでもって一撃で魔物を屠るその姿が瞼の裏に焼き付いて離れない。どうしたらそんなに強くなれるのか、と問おうとした唇は、傷口に触れた冷たい金属製の篭手からの刺激を受けて、思わぬ声が漏れた。
数度の質問を経て、酷く言いづらそうな顔をしたジークフリート団長から齎された言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。
「さいいんこうか」
頭の悪い俺は、それがどんなものなのか説明されてようやく現状を理解した。
次第に立ち上がれないほどの熱が身体を襲うのも、やけに喉が渇くのも、触れられるともっと欲しいと思うのも、全部それのせい。
ランスロットを呼ぶか、と聞く声に必死に首を横に振る。ランちゃんにだけは、こんな情けない姿を見られたくない。
「助けて、ください」
目の前にいるこの人に縋ろうと思ったのは、熱で茹だった頭のせい、だった。

>続く……?



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