忘れられない人がいる。正確にはいつもは思い出さないけれどたまにふと頭をよぎる人。今でも鮮明に覚えている。好きだったところ、苦手だったところ。最後まで素直になれなかったところ。憎まれ口ばかりだった。相手の優しさに甘えていたのだと思う。今思えば愛情に変わりはないが親を慈しむような、そんな感覚だった気もしているんだ。
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愛情に、時空はない
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ファーストコンタクトがなんだったかなんて忘れた。何で好きになったのかも覚えていない。気付いたら一等、特別な感情を抱くようになっていた。顔が好みなわけでも、声が好きなわけでも、とりわけ性格が合うわけでもなかったのに。好きに理由なんて必要ないのだと気付いたのはこの時だったはず。結局、"何でこの人が好きか分からないが、この人以外有り得ない"という感情が一番強い。
それでも、段々と優しさに触れたり、決して上手くない歌を一生懸命歌ってみたり、ふざけてみたりする姿が可愛らしいと思うようになった。
面白いことに、自分は腹が立つのに、同級生からお前の恋人は〜と言われるとその同級生に腹が立った。お前に何が分かるのだと。理不尽の極みだよな。同じことを俺も思っているのに。
でもその時に、この感情が"まるで親を取られたくない子供のようだ"と自覚した。
長すぎたのかもしれない。気付いたら、家族のようになっていた。間違いなく、あの頃俺達は"そう"だった。
長い間一緒にいたけど、やっぱり最後までこの感情がなんなのかは分からず仕舞いだ。今思い出しても、結局のところ感謝しかない。
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もう戻れない、旅立ちだ
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暑い日の日中、たまたまコンビニで遭遇したことがある。帰り道に奇跡的にタイミングが合ったらしい。冗談でアイスを買ってくれよって笑ったら、教えたこともないのに俺が好きな味を手に取って買ってくれたんだ。カラカラと、楽しそうに笑いながら「好きなもの、なんでも分かる」なんて言う顔が忘れられない。
あの日、好きになったのかもしれないし違うかもしれない。きっかけは思い出せないのに、こうしてしょうもない日常だけが溢れ返す。情けないとも言う。それでも確かに幸せだった。
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また会いたいか、また出会ったら恋に落ちるのかという問いが目の前にあったら間違いなくノーと答える。やり直したいわけでもない。出会い直したいとも思わない。
幸せでいてくれたらいい。どんな形でも。
そうして、俺のことは忘れて欲しい。そしていつかふと、何かのタイミングで思い出して欲しい。"Hero"でも聴いた時がいいな。
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また会う機会がどうしても訪れてしまったら?その時は、お互いが幸せでいることを心から喜びあえるんじゃないか。胸を張って。
追記
長さの感性は人それぞれだけど、干支を一周しないくらいだからきっと短くはないと思う。それでも過ぎてしまえば一瞬で、感情の移ろいとは残酷なものだ。隣にいるのが当たり前だったのに、トリガーがなければ思い出す日もなくなってしまうのだから。