11 / 02 就寝前
今夜は、アイツが遠征で家にいない。
昨日からアノヒトがまた、年末のイベント関連でウチの会社に出向してきている。
火曜は俺の部署が忙しすぎてロクに話せなくて、
でも何か見透かしたみたいな顔で出会い頭に「喧嘩別れでもした?」って笑顔で訊かれた。
喧嘩もどきはしたけど、別れてはいない。
から、笑顔で否定したらアノヒトの指が唇に触れて、納得した。
金曜の夜、唇を噛むなとアイツがブチギレたから、わざと噛んだ場所が切れて腫れていた。
それの跡が、まだ唇に残っていたんだろう。
確かに、喧嘩して叩かれて切れたように見えなくもない、なんて妙に納得した。
頬を叩かれたのはホントだけど、その腫れは土日でどうにか引いたし。
今日は普通に顔を合わせた。
項の切り傷がまだ残っていて、それを見られて「何してンの、君達」って笑われた。
どんなプレイしたのって訊かれても、未だかさぶたもどうにかくっ付いたその傷跡の通り見たままで、
具体例出したら即岩ちゃんに告げ口されそうだからそこは言わなかった。
大丈夫なの?って片目細めて訊かれた顔は、ちょっと普通に心配してるようだった。
でも、誰にも言いたくない。
あの日の夜の事は、俺とアイツだけの秘密。
離れたくない。一緒にいてください。
そんな風に毎晩口にしているアイツは、随分とあの日から疲れているように見える。
それでも言い続ける言葉は、義務感で言っていない?本心から言ってる?
それから、俺がこの部屋からいなくなる事に気付いているようにも見える。
アイツが国内にいる内は、引っ越しは無理かもしれない。
どれくらい離れれば、俺じゃなくてもいいんだって気付くだろうか。
一ヶ月一人暮らしをしても、逢える距離にいたらきっと今と変わらない。
一ヶ月国内でひとりで暮らして、一ヶ月向こうでひとりで過ごしたらどうだろうか。
まだホームシックみたいに、俺の事を気にするだろうか。
それとも、新天地でのバタバタで俺の事なんて忘れるだろうか。
二ヶ月なら?三ヶ月なら?
自ら言い出した「一ヶ月のブランク」で、アイツは俺以外の選択肢がある事に気付くだろうか。
そのまま、俺を忘れてしまったりするのかな。
それならそれでいいのかもしれない、俺はそれを望んでいるのかもしれない。
でも、離れたくないとも思う。
矛盾してる。
どうしたらいいんだろうか、俺は。
「俺を選んでください。」
「迷わず俺を選んで欲しいです。アンタが、必要です。」
切実な瞳に、頷いてしまいそうになる。