嬉しくて死にそうだ、…この台詞をここ迄本気で想う事があるなんて。

あの人がオレの為に言葉を綴ってくれていた。
今日、それらしい言葉を聞いて直ぐに察した。でも、でも、と、…オレは何度も一人で首を振ってその考えを消そうとした。だ、だって、あの人だ。

あ、あの人が、暇潰しとはいえ…暇潰しじゃないらしい。
オレの為に言葉を綴るなんて、そんな面倒な事する筈が無いだろう、なんて言い聞かせたりした。

だけど、少し探したら…その一文、読んだだけで直ぐに分かった。

貴方はオレの心臓を壊す才能でもあるんですか？
く、クソ、…また泣きそうだ、あの人に関しては涙腺が緩くて、男の癖に情けねぇよ。
畜生、何で、そんなに好きにさせるんですか。

あの人は、割とオレを苛めるのが好きだ。苛めている、と自覚していない時も多々あるけれど。
それがオレは悔しい。嫌とかじゃねぇけど悔しい。少し位、オレもあの人を苛めてぇのに、…というと少し違うか。

オレは、…あの人を齧りたい、潤んだ瞳を覗き込みたい、爪を立てたい、其処に甘さなんて全く無い位に、容赦無く傷を付けたい。…オレの苛めたいはこっちだしな。

つまり今日は、その苛められた仕返し、…になるかわからねぇけどオレがあの人に言われて喜んだ言葉を少し晒そうと思う。と言っても泣く程に喜んだ言葉は、……。

実はまだまだある訳だけど、流石に有り過ぎて迷っちまうから取り敢えずはこれで。
少しでも、あの人の顔色を変えられる事を願ってみるか。

あの人は言う。

残念ですが、…実は昔からオレはあざといんです、なんて言ったらどう思うんだろうか。

あの人は、犬に弱い。正確には、素直で感情を隠そうとしない気質が好きなんだとオレは思ってる。

あの人から、そうやって好みを聞いた時にオレはあの人に好きになって貰おうと、真っ直ぐに感情を伝えたり、あの人が弱いのを知って箱に入れられ捨てられた仔犬の様に憐憫を誘う目を向けたり、…割と誇りや手段を捨てて、あの手この手であの人の興味を引こうとした。

…ゆ、譲れない誇りも少しあったけど。

だって、オレはあの人が欲しかった。他の誰でも無く、あの人が欲しかった。
それはガキが玩具を欲しがるそれじゃなくて、水の中で空気を欲しがるそれに近ぇ。
何を渡しても、欲しかった。

二ヶ月過ぎて、その所為か、最近は少しだけ怖い。オレみたいな偽物じゃなくて、本物が現れたら、なんて。

…ねぇ、貴方が思う以上にオレは捻じ曲がってますよ。
そんな、オレでも、…好きですか？

貴方がくれたモノを私は忘れない。

まだ純粋な家族だった時にくれた、黒い輪。

恋心を抱いて強請った、貴方の白い布。

私の手を握ってくれた貴方がくれた、灰色と赤茶の暖かい物。

そして、また新たに増えた二つ。

あの人が選んで私にくれる物はいつだって凄い。何故ならエレンがくれる物には想いが見えるの。
ここはきっとこう想ってくれたのだろう、…こう考えてくれたのだろう、そう思わせてくれる。
だから、私はエレンが私の為に用意してくれた贈り物は全て好きだ。

だが、エレンに勝る存在(もの)は無い。

……その言葉が簡単に頭に思い浮かぶ程に私の頭は貴方に占拠されている。
溺れていない、なんて、もう言えなくなっている。

あの人は時折言う、まるで貢がれているようだ、と。
その度にこっそりとオレは思う。
オレは貢いでいるつもりなんです、と。

別に貢ぐ、と言っても悪い意味じゃねぇんだ。
有り得ない話だが、オレが巨人も居ない平和な世界で、…犬に生まれ変わったとして、それであの人に出会えたとして。

やっぱりオレはあの人に何かを渡したくて、こっちを見て欲しくて。花を咥えて、あの人の傍に駆けていくんだろう。

どう思ってくれるか、褒めてくれるか、喜んでくれるか。馬鹿みてぇにそんな事を考えながら。
あの人は、花を貢ぐオレをどんな感情でだろうとその時ばかりはオレを真っ直ぐ見てくれるだろうから。

だけど、怪訝そうな顔をしながらも何だかんだと甘いあの人は、その花を受け取ってくれる、…そんな気がするのは夢見がち過ぎるんだろうか。

つまり、オレはいつだってあの人の興味を惹きたい、
…こんな風に思うのは、…あの人が、オレが伝えたい事を零さず拾ってくれる所為かもしれねぇな。