・誕生日

前日は諸々の事情で全くお前と言葉を交わせやしなかった。
だから誕生日の祝いの言葉は先に、と思っていたが言いそびれた。結局お前に伝えたのは誕生日が終わる一時間を切っていた。お前は呆れていたようだが俺としては満足だった。だが次は最初と最後に声を掛けるのは俺だ、…普段はお前の事にまるで関心が無いみてえに振る舞うが強情で負けず嫌いなんでな。

>究極のコミュニケーション

殴っている最中俺はたまに痛いか、と訊く。お前は当然痛い、と答える。
質問し答えるというのは言語を用いたコミュニケーションの一つだ。愛ってのは目に見えねえ、そこに存在しているかすら危うい。だから俺は傷を介して愛を証明する。主張する。痛む度にお前は俺を嫌でも思い出しそこを労る。中には愛する者が傷付くのが見るに堪えないという奴もいるだろうが…これが俺の中で最も重要なコミュニケーションだ。究極に近い、或いは究極を追及するのであれば避けては通れねえモンだ。苦痛に歪む表情を独占し見下せるというのはとても贅沢だ。
これからもそのツラは俺だけに見せりゃいい。

一年後、お前の誕生日を迎えた時は。
俺達のコミュニケーションはどう変わっているのか、または何一つ変わってねえのか。見物だな、エルヴィン？

・動揺

今日はあんたから例の言葉を三回も貰った。
特にあたしが強請ったあの姿のあの言葉。あれを貰ってから心も接し方も乱れた。馬鹿みたいだろ…この通りあたしは単純なんだ。
しかし全く、あんたは本当にあたしがどう言われて喜ぶかを心得てるね。そういうところもあたしは嫌いじゃないよ。

最後の何行か…独占欲も嫉妬もないと思ってたあんたの口から出た言葉。これもあたしを喜ばせる為の手練手管…っていうなら大成功だよ。あんたの思惑通り、あたしはこの通り無様な位揺らいでる。
…あまりあんたを安心させるようなことは言いたくないんだけど。何があっても最後に帰るのはあんたの隣。気が済むまで甘えて、飽きたらどこかにフラッと行くけど結局恋しくて愛しいのはあんたの元なんだよ。
他の匂いを付けて戻ってきたとしても、たとえ擦り傷だらけでも笑って迎えて。撫でて、愛して。違う、あたしはどこへも行けない。嘘。

…ダメ、これ以上あたしは喋らない方が良い。

大丈夫…朝には、いつものあたしに戻ってるから。
それまでは、朝日が昇るまではあんたがくれた言葉に酔わせておいて。

#朝がこのままこなけりゃいいのに、なんてね。

・血

項に俺の名を彫りながら、滴る血をアレに絡めて擦り合わせた。

鉄と汗と肌と…動物らしい匂いが混ざって捕食してるみてえだった。
俺は馬鹿みてえにだらしない面でどっかの娼婦の如く喘いでいた。無様で惨めだったろうな、理性ではあれやこれやと考えていてもいざソコを刺激されると反応する外ない。俺も一匹の動物だと、そう実感した。人間ではない動物だ。結局射精する前に俺が止めてその場は終わった。やはり彼奴とは無理だ。しかし今は発情期の真っ只中だ、適当に引っ掛けて抜いて来ようと思う。どうせなら彼奴の目の前で犯りてえんだが、そこまで準備する気も無い。面倒だ。なので暫くフラストレーションは溜まる一方だろうな。


…あのままお前の心臓に刃を突き刺しちまえば良かったと。俺は後悔している。
…お前が逝っちまったら骨まで食って始末してやるよ。最高だろうな、鼻歌を機嫌よく歌いながら体を解体して。お前の血肉の臭いに欲情してマス掻きながら食うだろう。食欲と性欲を同時に満たす、贅沢だな。アレは最後のメインディッシュだ、暫くは口に咥えて吸って遊んでやろう。


エルヴィン、お前は幸せか？幸せじゃ駄目だ。
お前は不幸でないとな。

・

不安で仕方がない。
無意味に肌を掻き毟っても爪に残るのは皮膚だけだ。

こういう時に酒を切らしている。
内に溜めた言葉も悲しみも酒と共に飲み込んでしまえばいいと。
それすら出来ずにただ留まるばかりで情けねえ。

もう無理なのかもしれねえな、ある意味の限界を感じる。

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■/03:27
独りだと思い知らされる。干渉する癖に干渉させない。これからもずっとそうだろうが、どうにもならねえ。クソ弱いな。…ああ弱い。友人のエルヴィンに声を掛けてはみたがいいが、返事が無くて良かった。盛大に醜態を晒すところだった。

■/15:17
友人のエルヴィンに迷惑を掛けちまった。何かあれば彼奴に甘えちまう癖をいい加減に治さねえとな。彼奴は本当に優しく心根もしっかりしている、過大評価ではなく本当に。いろんな人間を見てきたがここまで打算もなく人を想える人間を俺は知らない。人望があるとでも言うのか。彼奴の邪魔にならぬよう適度な距離から見守っていたい。

・翳り

終始機嫌の悪い俺と早く床に就きたいお前。
漠然とした不安に駆られ如何しようも無く俺はお前を脅した。

>浮気してやる。

俺がお前を引き留める為に使う常套句だ。
実際に浮つくワケでも無い。
何が変わるでもない会話を繰り返し、
寝る前に「キスが欲しい」とせがむお前の頬を叩いて部屋を出た。
掌と頬のキスだ、キスに違いはねぇだろ。

…だがキスで機嫌を取ろうとするとはな。
そんなもので機嫌が治るとでも思ったか。

(どうして訊いた、無理にでも奪ってりゃ良かったろ)

お前は変わっちまった。
>それとも俺が変わったのか。