★★★
アツシは多分少し誤解してる。
オレはそんなに出来た人間じゃないんだよ。嫌なものは嫌だし、理不尽だって感じた事は飲み込まず立ち向かう。好きな事に関しては拘りも強いし、諦めも悪くて。少なくとも本心は温厚な方だとは言えないと思う。事実アイツにだって手を上げてしまったしね。…暴力はダメだと分かってはいるんだ、これでも。ただ、…反射反応?っていうのかな。うん。これに関しての言い訳はここまでにする。
けれど、…正当化する訳じゃないけど、きっとそれが人間なんだよ。綺麗な部分ばっかりを表に貼り付けて生き続ける事なんて出来やしない。
そりゃあ男である以上、好きな子の前では格好付けたい。それはよく分かるし、これだけ言ってるオレだってとんでもなくいい格好しいだ。それでもアイツは試合で抜かれて歯を食いしばるオレの姿を知ってるし、オレもアイツの眉間に皺が刻まれる瞬間を間近で見てきた。つまりはさ、ちょっと格好悪いところなんてもうとっくに知ってるって事。不細工な顔だって愛しいんだよ。
ここまでは曝け出せる、これ以上は無理。パーソナルスペースの線引きは人それぞれで、誰しも踏み込まれたくない領域を持っている。オレはそこに無理に足を踏み入れたり荒らしたりする事は絶対にしたくないけど、ただアイツが手を伸ばそうかどうか迷っているなら間違いなくその腕を掴んで引き寄せると思う。そして掴んだ手は離さない。
アツシ。無理に笑わなくていいし、もっともっと我儘でいいんだよ。そもそも場の空気を読み過ぎるお前なんてオレは嫌だ。年上には遠慮なく甘えて、手を焼かせればいいじゃないか。お前にはオレがいるし、その資格だってあるんだから。
それが、伝わるといいな。