花は一度として泣かなかった。
大切なものを落として来たと言う。
然れど求めることだけは止めなかった。欲しがる心は止まなかった。最初に求められたものは眼球で、最後に求められたものは別離の言葉で。――だけど。オレ自身は要らないと言った。花が欲しがったのは誰かに惹かれるオレで在って、花に惹かれる何も無い“オレ”は要らないと言う。丸で人形の様に他人を弄ぶ其の花は、けれど人形は要らないのだと言う。其れが愉快で堪らなかったことを、今でも良く憶えて居る。
分かり合えず、融け合えもせず、歪な形を保った侭で。理解した振りをして、無知で在ることにも気付けない侭で。互いの手で、互いの心を抉るだけの詰まらない関係に。――何の意味が在ったと言うのだろう。